黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
「黙っててもナンもわかんないよー?
それともー…。
ここまで来たのはいいんだけどー、おっかなくってなんにも喋れなくなっちゃった感じー?
ねえ? 吉良七夜くん? ……だっけ?
…にゃはは♪♪」
……そう。
今翔太が言った、まさにそのとおり。
情けないことに俺は、良雄たちを目の前にして、一言すら喋れなくなっていた。
お願いするどころか、言葉を出すために口を開くことさえ、できなくなっている。
それほど、良雄たちがまとう、“ 悪 ” …というか “ 負 ” のオーラに、圧倒されていた。
そのままの言い方だが、
“ これが狂った人間を相手にした時の恐慌状態なんだ ”
…と、肌で実感できた。
もしくは、“ 犯罪が日常的で、秩序や安心といった言葉の正反対にあるスラム街に、突然、訳も分からず放り込まれた状態 ” と言えばいいんだろうか…。
泳ぐ視界に、良雄たちの背後にある、バス背面の窓が映る。
…本格的に日が暮れ、真っ黒に染められた山道の景色が、ほの赤いテールランプに染められながら、静かなバスの走行音と共に過 ぎ去っていく…。
そんな光景を見ながら、僅かに内包しはじめた動揺を感じないようにと、
微かに震えだした心は、気のせいだと、
なんとか自分に言い聞かせる。
端から見たら、おそらく余裕がないのがバレバレであろう俺の顔を、嬉しそうに観察する翔太。
しばらくして奴は、口角をにやりと吊り上げ、気味悪く歪んだ唇を開いた。