黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
「そんな通路の真ん中でボケーっと突っ立ってないでさー、
…座んなよ、ココ?
ねっ? ココ♪
じーっくりとさー、その用件とやらをさー、…聞・い・て・あげるから…♪
ねっ?
……ひゃははは!」
そう言って自分の隣のシート……バスの最後部、しかも一番隅のシートの背もたれの表面を、右手で、ぽんぽん、と叩く。
視界は、意志とは関係なく、そのシートに完全に固定された。
おそらくは引きつっているであろう俺の顔を、なおも翔太は愉快そうに眺める。
眺めたまま、背もたれの高めの位置に置いた右手を、動かそうとはしない。
……どうやら、冗談じゃない……みたいだ……。
……だめだ……
……怖いっ……!
周囲の目を気にして…あと、己が持つ小さなプライドを守るために……表面上は、今も必死に平静を装っている。
…装ってはいるが、自分の足が微かに震えだしているのを、自分でも感じる…。
視界内に入る周りのみんなは、こんなに目立っているはずの俺のほうなんて、誰1人として見ていない。
…というより、みんな、巻き込まれたくない一心で、見て見ぬ振りをしているようにしか見えない。
─あの時、小町屋の警告に素直に従っていれば─
本当に今更だったけど、そんな言葉が脳裏をよぎった。
しかし奴らは、そんな後悔したり考えたりする時間なんて、与えてはくれない。