黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
◆良雄が暴力に訴える前に、ちっぽけなプライドなんてかなぐり捨て、急いで床に膝をついた。


……バスの走行音が、直接膝に伝わる。


周囲から、息を飲むような音が、いくつか聞こえた。

それが間接的に、

“ クラスみんなが乗っているバス内の、しかも公共の通路で、ひざまずいている自分がいる。 それをみんなに見られている。 ”

…ことを、痛いほど、俺にしらしめる。


それが、僅かに残った俺のプライドを突き刺したが、ここまで来たらもう止まらない。


─今、一番重要なことは…!─


…次に、自分の両手を床につける。

ペタッ…という軽い音がして、床の冷たい感触が、手のひら全体に、ジワッとひろがる。

床にいくつか落ちていたらしい、土なのか塵なのかわからない、小さな粒の感触も手のひらに伝わり、一瞬嫌悪感を覚えたが、そ んなことも関係ない。


そして最後に、頭を垂れる。




……すっかり静まり返ってしまった周囲の空間に、バスの走行音が虚しく響き渡る…。


それでもまだ、僅かにプライドが残っていたのか、頭を床につけることはしなかったし、『すいませんでした…!』…そんな風に謝ることも、しない。

ただ、静かに頭を下げる…。


…多分、今周りを見回せば、クラスメイトたちが、“ 可哀想なモノ ” を見る目で、俺の姿を見ているだろう。

それとも、“ 面白いモノ ” を見る目で……か。


いずれにせよ、プライドを捨てた今の俺には、関係なかった。


─今、一番重要なことは…!─

─とにかく、どんなに惨めな姿を人前に晒そうとも、自分の身体だけは守る…!─


……それだけが、全てなんだから。
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