黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□
……まさか……今の水が跳ねるような、音は……。


…視線の先にあったのは、良雄の、高級そうな黒光りする皮靴の先が二つ…

…と、小さな……小さな小さな、泡立った水溜まりが、一つ。


いや、もちろん、それがただの水溜まりなんかであるはずがない。

あの、『ピチャッ。』という音がした時に、できた…。


……ということは、“ これ ” は……

…… “ これ ” はつまり、良雄の……。


……今、俺は、『信じられない』…といった表情で、床のある一点を見つめているだろう。


─『それをお前の舌で舐めとれたらなぁ…?』─


…… “ これ ” 、を……?

…この、ただでさえ舐める物なんかでは絶対になく、しかも、あまつさえ不衛生な床に落ちた…


……良雄の…… “ 唾 ” 、を……?


プライドなんて、さっき土下座する直前に、とうに捨て去ったものだと思っていた。

でもやっぱり、こんな光景を突きつけられ、こんな屈辱的な命令がくだされた、今……自分の中に、まだプライドの欠片が残っていたことを、知った。

その証拠に、体が固まってしまって、動かない。

動きたくなんて、ない。


…こんな屈辱的な行為…

…絶対に、したくなんて、ない……!!


微動だにしない俺に、再び、あの悪魔のような声がかけられる。


「なんだぁ転校生?
土下座までしといてぇ、今更こんな簡単なこともできねぇのかぁ? あぁ?
なんなら俺がぁ…」


そこでまた、不自然に言葉が切れる。

先刻のこともあり、ビクッと反応してしまった俺の前で、良雄の足が、その場にしゃがみこんだ。
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