ジルとの対話
アマチュア時代、あるテレビマンが、ソロ歌手のバックバンドをやらないかとスクリューにオファーしてきた。しかし、
「キースの曲をやらないなら私は出ない。」
アンナはそう言って断った。
「構わないじゃないか。自分の音楽をやる近道だ。」
キースはみんなを説き伏せた。
「キースをどうするだ?一緒に歌わせんのか?」
アランは訝り反対した。テレビマンはキースには抜けてもらうつもりだったようだ。
ドラムが女性でありアランのでかい体つきからは想像も付かない繊細な音、スティーブンの華やかさに彼は誘ったのだ。
キースは確かに素晴らしいギタリストだ。
しかし、普通だった。もしヘヴィメタルだったならキースの良さを彼は発見したのかもしれない。
スティーブンはさっさと有名になりたかった。
キースに感謝していた。けれどチャンスをつかむために受け入れた。
キースは笑顔で見送ったが虚しかった。
音楽を一緒にやるって、そんな程度だったのか。
少なくともそんな感情は湧いた。
ポツポツ大きな舞台でスティーブンを見つけるとみんなで思わず笑った。
まったく自分のやりたい音楽と違うじゃないか。
しかし、キースの胸は2人の可能性を潰したという思いにも苛まれるようになった。




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