secret name ~猫と私~
佳乃だって、仲の良い友人にすがりたい時があるのだ。
セッテにそういう時は無いのだろうか。

「ジブン、ちゃんと名前も名乗れんような奴の友達に、なりたいと思うか?」

さらりとそう言って、セッテは言葉を失った佳乃の手から書類を奪った。

「これ、広報部に届ければええんか?」

書類をざっと見て、セッテが言う。

「・・・そう。」

「ほな俺行っとくわ。仕事戻っとき。」

さっそうと背を向ける。
取り返そうにも、手を伸ばせなかった。
向けられた背中は広くて、寄りかかりたくなるような、頼りがいを感じる。
それなのに、

(“友達”になってから、名乗ればいいのに‥‥。)

それほどまでに、規則を重んじるのか。

心に引っかかるものを感じたが、それを上手くセッテに伝えられないまま、佳乃は言われた通りにデスクに戻って行った。
飛び出すように出てきてしまったので、少しだけ戻り辛かった。
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