短志緒

健吾は顎髭に触れてからもう一度深呼吸をして、しっかり私の方を向いた。

「梨香」

「何よ」

健吾はきっと、私が傷つかないように精一杯言葉を選ぶんだろう。

それでもそれなりの覚悟は必要だ。

健吾はさらりと一言だけ言った。



「結婚して」



予想外の言葉を理解するのに数秒。

「誰と?」

「俺と」

また、数秒。

「え?」

健吾は呆れた顔をして、一旦息をつく。

私はきっと、さっきの健吾と同じ表情をしている。

「結婚しよう」

「結婚?」

「うん」

「あたしと健吾が?」

「そう」

「彼女いるのに?」

「今すぐ別れる」

「ヒドイ男ね」

「別れないまま結婚して良いの?」

「良いわけないでしょ」

「ずっと好きだったよ、俺も」

目にはまた、涙が溜まっていく。

でも、隠すためのブランケットは床に落ちてしまっている。

「ほんと?」

「ほんと」

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