短志緒
間もなくそばの路肩にタクシーが停まった。
「タクシー来たよ」
「あ、はい」
あんよのおぼつかない私を、男が腰に手を当てて支えてくれた。
「すみません」
「いえいえ」
タクシーまでは数メートル。
男に支えてもらいながら、おぼつかない足取りで一歩一歩歩く。
ようやくタクシーに乗り込めるという時、バッグのサイドポケットに入れている携帯が鳴りだした。
誰かから電話だ。
「すみません、ちょっと電話出てもいいですか?」
「あ、ああ。どうぞ」
ディスプレイには俊輔の名前が表示されている。
「もしもし」
『あ、彩子ちゃん?』
「うん」
早く帰りたい気持ちが強い私は、それを邪魔した俊輔に、ついぶっきらぼうに応えてしまう。
『結構飲んでたみたいだけど、歩きで大丈夫?』
「あー、ぶっちゃけ大丈夫じゃなかったんだけど、タクシーで送ってくれるって人がいて……」
『は?』
俊輔の声色が変わった。
彼のこんなに低い声は聞いたことがなくて、少し酔いが覚める。
『送ってくれる人? 知り合い?』
「……ううん、知らない……人」
男の手は、今でもしっかり私の腰を支えている。
もしかして、私は今、ものすごく危険なことをしようとしているのかもしれない。
そのことに、ようやく気がついた。
『今どこにいるの?』