短志緒
今の状況と怒気を含んだ俊輔の声が怖い。
「カラオケ出てからまっすぐ行って、角を曲がったとこ」
声が震えた。
私の腰を抱く手に力が入ったような気がするが、気のせいだろうか。
『乗るな絶対に! 断ってそこで待ってろ!』
俊輔の口から出たとは思えない口調で怒鳴られ、電話が切れた。
私は急に冷静になってきたが、体は言うことを聞かない。
「どうしたの?」
腰を抱く男が問う。
改めて顔を見る。
やはり真面目そうだし無害そうではある。
しかし、本当に無害な男は、見たこともない酔っ払い女をタクシーで自宅まで送ろうとするだろうか。
当然ノーである。
全身に鳥肌が立った。
私はどうしてこの人を安全だと思ったのだろう。
「なんか、友達が迎えに来てくれるって」
「友達? でもこのタクシーの方が早いよ」
「あの、もう大丈夫ですから」
私は彼から離れようとしたが、腰から体を押し込むように強引にタクシーへ乗せられる。
すかさず男も乗り込んだ。
「曙町まで」
男が運転手に告げる。
この辺では有名なホテル街だ。
待って。
それ、うちの方面じゃない。
運転手にそう言いたいのに怖くて声が出ない。