短志緒
「かしこまりました」
運転手が頷き、タクシーのドアが閉まった。
そしてすぐに発車する。
どうしよう。
私、乗っちゃった。
この人、私をホテルに連れ込んでいやらしいことをするつもりなんだ。
嫌だ。キモい。怖い。
怖いのに、抵抗したらもっとひどいことをされるような気がして何も言えない。
どうしていいかわからない。
変な汗がどっと吹き出す。
本当は、押し込まれる前に抵抗するべきだった。
いや、そもそも歩いて帰ること自体、危ないことだった。
こんなに怖い思いをするくらいなら、はじめから自分でタクシーに乗るという選択をすればよかった。
道は混んでいるが、私は右側に乗っているし、未だに腰は抱かれたままだ。
車が停車したところで、ここから道路に飛び出すのは怖い。
「……あれ、お客さんの知り合いですか?」
「え?」
運転手さんが後ろを指差し、私と男は条件反射的に背後の窓を見た。
誰かが車道を疾走している。
「彩子ーーーー!」
俊輔だ!
俊輔が、私を助けに来てくれた!
「止まってください! 止まって! 早く!」
「えっ?」
血相を変えた私の声に、運転手が慌てて路肩に車を停める。
停まる前からドアを開けようとするが、開かない。