短志緒
「どうしたの? 危ないよ」
男が私の手を握って止める。
口調は優しいが、私の手を握る力は強い。
「放して!」
私が叫んだ瞬間、バン!と耳元で大きな音がした。
扉のむこうに俊輔の顔が見えた瞬間、私の涙腺が壊れたかのように涙が溢れだす。
「開かないよぉ」
「彩子! 鍵だ!」
言われて初めてドアの鍵が閉まっていることに気付き、つまんで上に引き上げる。
すぐさま俊輔がドア開け、私を力強く引っ張り出す。
男はあっさり私を手放した。
私の様子から、運転手には私の同意なくホテル街に向かっていたことが伝わったはずだ。
面倒を避けるために懸命な判断だといえる。
タクシーから脱出できた私は、すがるように俊輔に抱きつく。
「こいつは俺の女だ! 一人で帰れ!」
俊輔はそう怒鳴り散らし、乱暴にドアを閉めた。
こんな俊輔は見たことがない。
タクシーはすぐに発車した。
ププッ
後続の車にクラクションを鳴らされ、私たちは車道から歩道へと移動した。