とある神官の話




 残ったのは目を赤くしたシエナだけで、私は声をかけた。びくりと肩がふるえる「シエナさん」
 手招きすれば、近寄って来る。素直だな、と思うことより、大きな理由があった。セオドラ・ヒューズの死。私だってそうだ。ロマノフ局長のが仕事しないと嘆き、私に頼んできたりしたし、たまにお茶をご馳走となった。

 体を起こした私のすぐそばに彼女は座る。





「誰かが死ぬのは、経験していないわけじゃないんですけど」

「……ええ」

「ヒューズ副局長とはそれなりに会って、親しくて」

「シエナさん」




 見てられずに己に頭を寄せる。手を背中に回せば、彼女は私の服を掴む。ヒューズさんが。ヒューズさんが。そう繰り返すシエナの肩が揺れる。死んでしまった。

 彼女はこんなに細かったのか。寄せられた肩や背中はやはり女性だと感じさせる。人の死は見ないというこてもない。神官ならばとくに。だが、かといって慣れることもない。



 今私に出来るのは、彼女の涙が止まるまでこうしていることだけだった。






Chapter3 了

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