とある神官の話
ヤヒアがアガレスの隣に並ぶ。景色は確かに美しい。だが、とヤヒアはアガレスを思う。
何故こんな美しい人は独りなのか。
ヤヒア自身、陶酔に近いだろうということはわかっている。女に興味がないからてっきり男が?と思ったが、そうじゃないらしい。
ただ、アガレスに抱かれることを希望する者はいるだろう。ヤヒアはその見ず知らずの者に嫉妬を覚えた。
――――どうせ彼らは先に死ぬ。
アガレスはノーリッシュブルクの街を眺めながらずっと思い出していた。あれはずいぶん昔か。だがまだ思い出せる。
長命であるヴァンパイアと人間。もちろん人間のほうが早く醜くなり老いて死ぬ。我等を置いて、忘れるように。ヨウカハイネンはそう言った。我等は置いていかれる。いつもだ、と。
それに自分は、死者も生き残っていた者が生きている限り記憶として生きる。そんなようなことを言った気がする。
あいつを神官にさせたようなものだ。アガレスは目を伏せる。今でもヨウカハイネンは"神官"のままだという。別にそれがなんというのか。
―――――大好き。
「っ……」
「どうしたの」
「なんでもない」
罪。
覚えている。叫び声を。炎を。残虐な奴らを。守れなかった罪か。わからない。
溜息ついたアガレスに不審そうなヤヒアの視線が向けられた。何でもないとアガレスは答える。落ちてくる雪に「まあいい」と目を閉じた。
「時は満ちたのだ」
――――愛しているわ。
その声はもう、聞こえない。