とある神官の話




  * * *




 祈りが捧げられていた。
 儀式。それは死者へというよりも、生き残り、これから先生きていかなくてはならない我等のための行為にも思えた。セオドラ・ヒューズの死。

 あのヘーニル・ロマノフ局長でさえ「馬鹿野郎っ……」と言った言葉が震えていた。つられるように涙を流し、式が終わったあとになり、声をあげて泣くものも見かけた。
 死は平等だ。だが、と私は思う。死ぬべきものなどいないのだろうが、私はそんなにいい人でもないし、聖人でもない。死ぬべきものがのうのうと生きている事実。なぜ、と人は問う。




「これで一つ確実となったな」

「ええ」




 ハナタレも老けたものだ、と私は思う。正装姿のエドゥアール二世が静かな部屋でそう言った。

 ヤヒアには姿を変える能力はない。なのに彼は投獄中のラッセル・ファムランの姿をとった。可能性として考えられるのはやはり―――アガレスだ。優秀な神官だった彼ならばと。
 そもそもラッセル・ファムランはあのアガレスが起こした事件時には、アリバイがあったのだ。だが、そのアリバイを証明できる人が変死したこと、証拠紛失により彼は投獄された。

 人間での約二十年。ラッセルはいい歳だし、目の前にいるあのハナタレでさえ教皇となった「フォルネウス」




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