とある神官の話
「守るというのはそういうものではないですか」
「……自分を守ろうとすれば、まわりに手が回らないのでは?」
「でしょうね」
よく、己の身を犠牲にしてまわりを守る、そんな話を耳にする。昔話や英雄話。だが、私はそんなこと出来ない。よっぽど思いが強くないと無理だ。それでも―――見ず知らずの人を守るために、己を犠牲にできるか?
私自身は、わからない。ただ、知り合いならばと思う「でも」
「できれば、己の目で、守りたいものを見たい」
「それが君の考えか」
知らない人だから、こんなことを話せるのだろう。
跪いて祈りを。その間にも男は立っていた。再び立ち上がると、こちらを見ていた目と、私のがあう。
男はふっと僅かに表情を和らげた。
「一つだけ」
男の手が伸びる。肩についた雪をはらいながら、男は言った。
「"いつかくる選択を躊躇うことなかれ"」
それはどういう?
聞き返す前に、突風。舞上げられた粉雪から顔を咄嗟に庇う。それは一瞬だった。大丈夫ですか、と男に声をかけようとしたのだが、目の前には何もなく。
まさか幽霊?と思った私は思わず、足跡を見てしまった。
もちろんそこには、私のよりも大きな足跡があった。