とある神官の話
雪は降る。
そこはこの時期には人の姿は滅多にない。冷たい無。静けさから雪の落ちる音まで聞こえそうだった。
私は白い花を手に、私は雪を踏み締めていく。私の足跡だけが続く。
遠くで鐘が聞こえた。
墓地。その中でも新しいもの。墓石に刻まれた名は、セオドラ・ヒューズ。副局長だった男の名。最後に見たのは、考えたのは何だろう。
「?」
しかし、と私はその先にあるヒューズ副局長の墓標の前に影。ハイネンだろうか。黒い外套とフード。
足を止めた私に、「英雄は墓の下にしかいない」と声。誰だろう。ハイネンの声ではなかった。
男が、こちらを見た。
「この者が守りたかったのは、一体何だろうか」
フードから覗くのは青。
男は冷たい墓標の前に立つ。見たことがない顔。だが、息を飲むほどの美しい顔だ。
「自分と、そのほかではないですか」
「自分も?」
男は意外そうな顔をした。私は墓標の雪をはらい、花を供える。ヒューズ副局長の知り合いなのかも知れない。
明日には出なくてはならないからと、急いで来たのだが。知り合いに会わず、よくわからない男と話しているなんて。