とある神官の話
「あの!」
「驚いたでしょう」
些か困った顔をして、彼は口を開く。
「たいていの人が"あれ"を聞くと、態度を変えたように私に接するので、貴方には、"養父"がいることだけを伝えたのです。その、怖かったので」
「……怖い?」
何が怖いというのだろう。
エドゥアール二世に拾われたという事実は確かに影響力はある。派閥では何とか引き込もうとするだろう。だが、ゼノンならば平気な気がする。
ヨウカハイネンやブランシェ枢機卿らがいるのだし、ランジットだっている。彼らと会ったから尚更だが、色んな意味て最強な人ばかりではないか。
むしろ、怖いのは―――私。
ジャナヤの件で、私がどんな過去を持って今ここにいるのか、皆に知られてしまったのだから。彼らは「私は好きですから」と、「何か言われたら燃やしてやる」とか、言ってくれたけれど。
私は、怖い。
「折角、近寄れたのにまた、距離が開いてしまう気がして」
距離にして、数歩。
首に下げられるネックレスの存在を思い出す。ああ、馬鹿だ。馬鹿だ。
ぐっと作った拳を作り、一歩。
貴方は、貴方は「シエナさんはシエナさんです」といった。ならば私は?
彼は。そう、私は自惚れではないなら、彼は私を、想っている。散々好きだと追い掛けられ、信じていなかった。信じられなかった。それは―――今もあまり変わらない。だって、そうだろう。