とある神官の話
「私、頑張ります」
「え、あ、頑張って?」
強く頷いたゼノンが列車に乗り込む。
意味わからない、と私は首を傾げたが、「貴方も大変ですね」とこれっぽっちも大変だと思ってなさそうな顔が笑う。
どいつもこいつも―――。
何故ブランシェ枢機卿が毎回顔色が悪いのか。ロマノフ局長は「奇人変人に弄られてるからな」と言っていた。その一人がハイネンなのである。
ああそうか、苦労してるのか……。
列車に乗り込めば、既に座っていた男軍団。レオドーラの隣にハイネンが座っているため、私は必然適当にゼノンの隣に座ることとなる。
程なくして列車は動き出した。
「幽鬼が狙うのは黒髪の女性ですか」
白い風景が過ぎていく中、向かいにいるハイネンが口を開く。実はいうとバルニエルに行くのはいいのだが、はっきりいったことがわからないのだ。
それはゼノンも同じらしく、ハイネンとレオドーラの話しを聞いていく「で」
「バルニエルで俺が女の格好して囮になったが、奴らは違うといって攻撃し、逃げられた」
「……、女装したんだ」
お前より似合ってるかもよ、と言ったため臑を蹴ってやる。「っ!?」と背を丸めたレオドーラを無視し、私は続きを促す。
実はいうと昔レオドーラの女装姿は見たことがあるので、思いだしかけた。
幽鬼は実はいうと、すこし前から目撃情報があったのだという。最初は聖都からかなり離れた場所であり――――ミノア、ノータム、という場所でも目撃されていた。しかも決まって、黒髪の女を探しているという。
ミノアやノータム、ノーリッシュブルグ。そして聖都付近、黒髪の女性。
ゼノンとレオドーラとハイネンの三人の視線が集まる。確かに黒髪で女だけど!
かっこいい分類にいる三人をいくら知っているとはいえ、イケメンに見つめられるのはどうもいたたまれない。
「もしかして、シエナさんが?」
「ジャナヤの件もそうですが、ヤヒアもシエナさんのことを何かしら気にしていると見るべきでしょう。それに」
「それに?」
「偶然と考えるべきかも知れませんが、シエナの後を追っているようにも感じませんか?」
まあ、と頷く。
ただ、黒髪の女性なんてたくさんいる。偶然といったら偶然ではないだろうか。
ガダン、と列車が揺れる。
「シエナさんに会ったことがある人物で、それなりに親しいといったら限られますよね。聖都はともあれ、バルニエルには貴方に深い関わりのある人がいる」
例えば――――ここにいる男軍団。聖都の局長やブエナ達。
聖都には幽鬼や魔物は入り込めないため、幽鬼に関しては心配はないだろう。だが他は?ミノアではそんなにいないし、ノーリッシュブルグならばあの双子か。ラッセルもまた知り合いといったら知り合いだし……。
「どういう……」
「少なからず被害者が出ていて、それから――――アーレンスがこう聞かれたそうです」
――――貴様の娘はどこだ
バルニエルにいる高位神官、アーレンス・ロッシュは私の後見人である。成人した今でも頼りになる人物であるが……。
幽鬼は複数存在しているが、そう聞いてきた幽鬼はアーレンスは仕留めたそうだ。
女性ばかりを狙うそれが、何故アーレンスを狙ったのか。
レオドーラのような、"女顔"ならばまだわかる。だが、私が知るかぎり「娘って」いないはず。それにはレオドーラも頷き「お前しかいないよな」という。
「セラヴォルグが亡き後、私の後見人としてアーレンス・ロッシュが親がわりのようになってくれたんです。だけど…」
「彼には息子しかいませんし、ね。"娘"といったらシエナのことではないかと」
「なるほど。だったらバルニエルより聖都にいたほうが安全だったのでは?」
「幽鬼に関してだけならな」