とある神官の話
「もう一回見たい!」
「ああこら!神官様に失礼を」
「いや、気にしないで下さい――――いいか?見ていろ」
手の平を出し、一度握る。腕を伸ばし、握られた手の平を開けば翼。氷のような透き通った鳥が翼を大きく広げ、腕から離れる。
淡い光の尾をひいてひくく飛び立つと、やがて上空へ向かい、飛散。光の粒子が降り注ぐ。
「すげえ」やら、「うわあ」やら賑やかな声を発した子供達に笑みが零れる。子供達はいつだって無邪気だ。笑っていたほうがやはり良い。もう一度出現させると、その鳥を子供達は追い掛けていった。
自分は恵まれている、と思う。
幼い頃に育ての父に引き取られたが、亡くなった両親は私を愛していたという。そして養父もまた、私を愛してくれた。恵まている、そうだ。ぴんからきりまであるだろうが、私は己の境遇に感謝していた。それなりに、幸せだと。
私は村を離れ、巡回神官として各地を回った。聖都にいる上の連中は私を聖都に留めさせたいらしいが、私は都会が好きではない。それに地位も興味がない。私は私で好きに生きたい。
―――だがお前は私より長く生きる。養父は言った。私よりも長く生きる種族だからと。お前は悲しむだろう。勿論。当たり前だ、父さん。
普通のヒトの倍は生きる我等は、孤独だ。聞けば自殺する者もいるという。父は私に生きろと言った。とにかく生きろ。お前をお前だと理解し、友とし、名を呼ぶ者らを大切にしろ。長命種族以外であろうとなんであろうと、お前を大切にしている者を大切にし――――覚えていろ。
お前は多くのヒトの死を見るだろう。悲しむなとは言わない。悲しむときは悲しむべきだ。ただ、お前は覚えていてやればいい。彼、彼女がいたことを。
道を歩きながら、はて、と思った。村の跡地らしい。
朽ちかけた建物は、物騒な色で染められている。体調をやや悪くさせる晴天の日差しを受けながら、私は帽子を被り直した。ヴァンパイアは太陽の光に弱い。死ぬことはないが、体調不良を訴える。私も例外ではなかった。とはいえ死ぬことはない。
闇術に身を堕とした者―――闇堕者は人里から離れて拠点を構えることもある。何度も戦闘になれば、闇堕者を屠る執行者として裏で名前を知られても可笑しくはない。狙われたこともあった。
朽ちかけた建物らを歩けば、ああ、と"それ"を見つけた。