とある神官の話
「お前」
無駄に整った顔は色白で、青色の髪は長さがばらばらである。切られたらしい。衣服もボロボロで、血で汚れている。お前、と私が口を開くと男は目を開いた。虚ろな目だ。
男の他に、よく見れば死体らしきものが転がっている。といっても纏っていた衣服や武器だけだが……。
どうやら、この男も死体もヴァンパイアらしい。
ヒトは死ねば死体となる。形が残る。だが、ヴァンパイアは違う。多少のことならば死なないが――――死ねばああやって、"本体"が消えてしまう。死体が残らないのだ。
「何があった」
「……知ってどうする。邪魔だ。どっか行け」
「邪魔?そうか邪魔か。だが私がお前にとって邪魔には思えないが」
男の顔が歪む。傷は深いが放っておかなければ死なないだろう。逆に放っておけば出血多量などで死ぬ。それくらいこの男も知っているだろう。
朽ちかけた建物の壁に背を預け、男はこちらを睨んだ。同族は見ただけでは年齢がわからない。だが、この男は"能力持ち"らしい。放たれた氷の刃を回避する。
「名前は?」
同族に会う機会は少ない。些か興味があった。
男はそんな私を不愉快だとして、「知るか」やら「貴様こそ何なんだ」やら食ってかかかる。だが、血を失いすぎたのか朦朧としてきていた。
男は「死ぬときくらい放っておけ」などと言った。多分、殆ど意識が薄れている中でだ。お前は生きたくないのか。だからそんな目をしているのか。確かに世界は、現実は苦しいことばかりだ。
孤独。
辛いだろう。苦しいだろう。私だってそうだ。養父が死んだ時もそうだった。独りだ。独り――――だが違う。養父がいったことを私は抱え、思い出し、覚えている。
「お前がお前を放棄するなら、私が拾おう」
「な……に………?」
気まぐれ。
別に放っておいたところで、何でもない。ただ、気まぐれとしか言いようがない。恨むならば恨めばいい。なぜ助けたのかと。助けたかったから助けた。死ぬときは死ぬ。
ただ――――そう。
私は孤独も知っている。だが孤独じゃないのも知っている。誰かに名前を呼ばれることや、馬鹿みたいに笑うことだとか、そういうのが痛いくらい、嬉しいことも。