とある神官の話



 両親の顔は覚えていない。ただ、瀕死の母が幼い私を同族ではなく―――同族よりも信頼していたヒトに託したということは知っているし、朧げに覚えている……ような気がする。
 ヴァンパイアを毛嫌いする者もまだ少数だがいる中、母から私を託された男は何の迷いもなく私を育てることを決定し、様々なことを教えた。養子にしなかったのは、名前も名字も私の両親が私を愛していた証だと思ったからだと聞いたことがある。

 私はお前の両親を知っている。そしてお前を愛していたことも。お前はお前の名前を大事にしなければならない。


 ―――ああ、わかっている。





「神官さま!」

「?」




 近くの町にいる地方神官が村に到着し、彼らに任せていたときだ。きらきらした目をした子供が数名私を取り囲んだ。村の子供達らしい。
 同族よりもヒトと触れ合い育った私には、別にどうってことはない。それに子供は嫌いではない。

 咎める大人に「気にするな」と目で伝え、視線を下へ向ける。




「ね、ね、さっきのって何?」

「やっぱりまほう?」

「あれか?あれは―――」




 魔物を倒した後、男たちを連れて村に戻ってきた。そして村自体に魔よけの封術をかけ、一筆書いた。魔法などと聞いてきたのは、封術のことであろう。
 それとは別に、私には生まれもった"力"があった。いわば"能力持ち"である。
 男たちの武器を能力で一つにあつめ引きずり、破損したものを治したのだが……それを子供達は見ていたのだ。

 "能力持ち"は数少ないし、田舎では神官の姿さえ見ないだろう。まして私のような"魔術師"の力はかなり珍しいとされる。珍しいとなると目に入ることも少ない。

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