とある神官の話




 助けたアガレスが彼女のために一肌脱いだのは私も知っていた。特異体質といえるそれは"能力持ち"になるのかまだわからないが、とかく体が弱い。よって彼女は病院にいることとなっている。
 そして彼女のことは、例がないため聖都からの神官が調べに度々くるのだ。
 私は、それがたまらなく不快だった。まるで実験データを取るような感じで……「全く」




「ちょっと元気になれば、これか」

「セラからアガレスの話を聞いてただけだもの。無理はしていないわ」

「何を話した」

「さあ」




 アルエと目を合わせとぼけると、アガレスの機嫌が低下していく。ああ怖い。
 慣れた手つきで彼は花束を花瓶に移し替えていく。それを―――アルエが優しげな目で見つめる。

 私とて馬鹿じゃない。

 アルエは、アガレスのことを"大切"だという。あの人は孤独を知っているのねと。口には出さないが、見ていてわかる。わからないのは当人同士だけだ。
 彼女こそ気づいているだけマシだが、アガレスはどうやら無自覚らしい。早く気がつけ馬鹿者め。

 アルエの病室を出て、私はアガレスを呼び付けていた。




「何かわかったか?」

「いや……ただ、これから先調べるのも難しくなるなるだろうと思ってな」




 ――――"組織"の有無。
 私の"疑問"はアガレスもまたひっかかりを確実なものとしたのはいい。だが、まだ動けない。
 人体実験、闇術に神官が関わり率先しているのなら……大問題だ。
 そうか、と目をふせたアガレスと私は椅子に座りながら考える。もしかしたら、彼女が狙われるかも知れない。私がそういうと、彼は僅かに目を見開き、「そう、だな」と頷く。

 奴らは貪欲に求める。
 アルエの力に興味を持ってもおかしくはないのだ。彼女を守れるとしたら、私らしかいない。



「―――あの子を守ってやれ」

「……ああ」




 彼もわかっている。だからああやって頻繁に彼女のもとに来ているのだ。
 席を立ってアルエのもとに戻ったアガレスを、微笑ましく思った。種族は違えど、理解し合えるのだから。

 私も年老いたか、と一人苦笑した。




  * * *



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