とある神官の話
――――???年
何が間違っていたのか、私はわからない。間違っていたとしても、今更どうにも出来ない。
どうにか、したかったのだ。
「嘘だ……」
"ほら、笑って"
「……そ、んな馬鹿な」
"私、私ね―――"
「私が、私…殺した…?」
"大好きよ。アガレス"
「しっかりしろ!アガレス・リッヒィンデル!」
真実。そう、真実は解き放たれた。私か調べていたことも、アークの死も重なろうとしていた。立ち止まってしまいそうになった。呆然と立ち尽くすアガレスのように。
―――だが私はそれを許さない。立ち止まるな。生きよ。わかっている。死んだ者たちを忘れず、私は覚えている。
野放しにするつもりはなかった。殺せ。殺せと内側が叫んだ。だが、私は踏み止まった。殺しても死んだ者は戻らない。虚しさが残るだけだと。わかっている。別の方法で裁くべきだと。
"真実"を知ったアガレスは、恐らく砕けてしまったのだ。あの時、粉々に。
私は―――後悔した。
アークも、そしてアルエも、一足遅かった。力が及ばなかった。アガレスが心を砕き神官らに背を向け、ハイネンは一人悩む。
アガレスが"復讐"に駆られるように、神官や枢機卿を殺害した。無残に、残虐に。恐怖の対象となった。人々は何故だと言う。何故、何故?そんなの決まっている。腐った連中のせいだ。私は、アガレスを止められなかった。ああなる前に、止める必要があったのに。
――――アガレスが奴らに"闇堕者"とされ指名手配されてからも、私は調べを続けた。アークの術式を手に入れ、密かに研究をした。
ああアガレス。お前の手だけを血で染める必要はなかったはずなのに。
自責。
いくら後悔しても駄目だ。
私は前を向く。ハイネンに「セラは強いのですね」と言われたが、私は強くない。強くなんかない。弱くて、怖がりだ。助けたい者を助けられなかったのだ。
私がいつか死んだら、誰が覚えていてくれるだろう。
今まで私が守れなかったものや、断罪してきた者たちが私を責めに、殺しにくるだろう。
―――………。
「と、さん……」
死ぬときに、今までの過去を思い出すなどと聞いたことがあった。確かにそうだ。途切れ途切れで、曖昧な記憶を私は思い出していた。
苦しいことばかりだった。
だが、それでも……。
それでも私は笑っていた。嬉しいことがあった。娘が出来た。ああ、シエナ。シュエルリエナ。私の娘。傷を負った娘。私を父と呼び、大好きだという。
お前がさらわれたとき、私は恐ろしかった。"またか"。また私は駄目なのか。
せっかく、見つけたのに。
せっかく、守れると思ったのに。
……すまない。アーク。
「シエ、ナ。ああ、よかった思い出し、て」
「父さん…!わた、わたし」
ウェンドロウを殺害し、私は彼女にかけている術式を閉じ込めた。守るために。シエナ。シュエルリエナ。知っているかい。私は、君と同じように笑う男を知っているんだ。さすがにあまり似ていないが、雰囲気が近い気がするよ。
……すまない。
君を助けて娘にしてから気づいたが、私はそれを運命だと思った。運命。
私は後悔などしていない。むしろ――――感謝したいくらいだ。