とある神官の話
―――――???年
「―――いろんなことがあったのね」
ベッドから上半身を起こした彼女に、私は話しを請われた。何を話すべきか迷っていると、彼女が「じゃあ貴方が今までにいたるまでのことを」と言った。
それには私も困ってしまった。
だがまあ、いいかと私はかい摘まんで話した。
長いこと生きていると、それなりに抱えるものが増える。そうはいっても中々話すとなるとうまくいかない。
「アガレスが言ってたわ。孤独から救ったのはセラだって」
「あいつが?」
「ええ。彼、貴方のこと大好きなのね」
「……男に好かれても」
「そんなこと言って、すごく嬉しいくせに」
ふふ、と悪戯っぽく微笑んだ彼女の言う通りだ。ただ、アガレスが"大好き"などと言ったら私は絶対鳥肌が立つだろう。
―――わかっている。
どいつもこいつも、まったく。
何だか恥ずかしくなった私を見通したように彼女が「ねえ」と切り出す。
「もし、私が死んだら」
「アルエ」
もしもの話しよ、とはいっても私はそんな話をして欲しくはなかった。私というよりも、アガレスのために。
黙り込む私に、アルエが困ったような顔をした。わかっているのよ、とでもいうように。
「貴方たちは覚えていてくれるのでしょうね」
――――当たり前だ。
そう背後から声がして、アルエが嬉しそうな顔をした。私も振り返ると、花束を抱えたアガレスが立っている。来ていたのか、と。
"あの"アガレスが、とある場所で娘を助けた。彼女は身寄りがない上に、体が弱かった。そして、奇妙なことに"能力持ち"の力を受け付けない。いくら彼女に"能力持ち"が能力で攻撃しても、彼女には傷がつかないのである。