とある神官の話



 私はいつだって死を覚悟していた。だが、娘が出来てからは必死だった。もしものときのために、私は聖都に家を遺した。十分暮らしていけるお金も、彼女が危険に晒されぬようにも手を打った。

 大丈夫だ、シエナ。

 私が死んでも、君は生きていける。私はそう準備した。ああ、泣かないでくれ。シエナ。君は大丈夫だ。ほら、泣かないで。



「シエ、ナ……私の、娘」




 後悔ばかりだった。
 後悔。
 だが、私は彼女に出来るだけのことをしたし、遺した。残念なのは君が結婚する姿を見られないことは残念だな、だなんて。


 君はきっと、様々なことを知り、見るだろう。

 君は、これから先も傷つき、涙を流すだろう。けれど、君は生きていかなくてはならない。大丈夫。君なら。私の娘なのだから。




 男は静かに、目を閉じた。
 思い出とともに。





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