とある神官の話
もう、疲れたのだ。
死ぬならそれでいい。
「……?」
そう思ったときに、目の前に変な男がいた。敵か。だが男には殺意がない。何なんだ、こいつは。
幻覚だろうか。出血多量で朦朧としている私は、目の前の男を見た。綺麗な顔だった。深緑の髪で、「何があったんだ?」などと言う。私は答えるのが億劫だった。だが男は去らない。
「……知ってどうする。邪魔だ。どっか行け」
「邪魔?そうか邪魔か。だが私がお前にとって邪魔には思えないが」
顔が歪んだ。傷が痛む。苦しい。痛みがまだ自分か生きていることを証明する。
何なんだ、こいつ……。
苛立ち気味に睨み、"力"を使った。だが放たれた氷の刃を、男は軽々回避してみせた。馬鹿な、と思った。今までで避けられたやつはいなかったのに――傷を負っているのだから、当たり前か。
溜息。痛みが何故か引いていく。そろそろ本当にまずい。
「名前は」
「知って、どうする?私が死のうが貴様には関係なかろう」
「お前はお前を放棄すると?」
「…ああ。だからどっか行け。目障りだ」
死ぬなら静かに死にたかった。
何故話し掛けてきたのだ。何故。私は一人で死ぬ覚悟をしていたのに!貴様は!
朦朧とした意識で、男を睨んだ。だが男は去ろうとせず、むしろ片膝をついて――――笑ったのだ。
「自分を放棄するなら、私が拾おうか」
多分、多分そんなことをあいつは言った。私はぎりぎりだった。幻聴ではないだろう。確かにあいつは何かを言ったはずだ。だが私は確かめなかった。聞くのを何となく、ためらった。
―――次に気がついたときには、助けられていたのだ。
* * *