とある神官の話
まだ秘密ですよ、とアークが言ったことに、私もまた何となく決める。
―――お前は自由だというなら、そうさせてもらおうではないか。
「アガレスさん?」
アークが雑草を片手にしたまま、こちらを見て何故か驚いた顔をしていた。何だ?と私が首を傾げていると「アガレスさんも」と口を開く。
「笑うんですね」
「お前…私を何だと思っているんだ」
「むすっとしているの勿体ないですよ。どうせならもっとニヤニヤしないと」
私だって笑う。自分でそういいつつ、口元に触れる。自然と笑っていたらしい。何かのために愛想笑いくらいはするが、自然に笑えたのは久しぶりな気がする。
アークの言葉に突っ込みは入れず、私も雑草を引っこ抜く。……やったことがないが、まあ暇つぶしにはなった。
私は、考える。
あいつは私をただ、助けた。目的も狙いもなく、ただ助けた。余計なお世話だった。私は死ぬつもりだったし、死にたかったのだから。だが私は生きている。孤独では、なかった。
少しだけ生きていてもいいか、などと思えた。だから、そう―――。セラヴォルグに連れられてアークがいる村から離れ、山奥の小屋で生活をしはじめた時に、私は決めたことを口にした。
ちょうどいいタイミングで、セラが「神官にならないか」と言ってきたのを私は受けたのだ。
それから――――私は神官の資格を得た。
……なんだかな。
山道としか思えない所を、私は歩いていた。毎回思うが、何でこんな面倒臭い所にいるのかわからない。まあ、彼らしいといったららしいが。
神官の資格を得てから、報告しにいく云々と適当に理由をつけてきたのはいいが、さて私はどこに配置されるのかまだわからない。猶予期間、といったところか。
溜息。
日差しが強い。木々によって遮られているからまだマシだが、ひらける場所も多い。そうなると直射日光を受ける。
。都に比べたらどがつくほど大自然だ。こんなところじゃなくてもと思うが、無理もない。
血を必要とする種族であるヴァンパイアは、はるか昔から派閥のようなものがある。簡単にいえばヒトを襲うような者ら、迫害を受けたものが暴徒のようになった者と――――迫害を受けつつも平和を望み、上手く付き合う者――――様々だ。
昔にくらべたら、ヴァンパイアなど悪ではなくなり、普通の種族となったが、それでも同族らはそれぞれで生活していることが多い。
面倒事を避けるため、同族は辺鄙なところに住むことも少なくない。