とある神官の話
木々を抜けると、一気に開けた。
途中感じた不快感は、"術"が私を受け入れたためのものだろう。
そこには、やや小さな家がある。いや、いや家というよりもバンガローのような、山小屋のような建物だ。近くには畑のようなものもある。
「――――セラ」
入口の扉を軽く叩く。出ない。もう一度叩く。出ない。
勝手に入ってやろうか。日差しが強くて具合が悪い。そう思った時――――。
室内から凄まじい音がしたことに、やや慌てて扉を開ける。
「セラヴォルグ!どこだ」
靴を脱いでずかずかと進み、部屋の扉が空いている所へ向かう。入口には本が転がっていた。そして――――その部屋の中は本棚が倒れ、大量の本が散らばり、そこから腕が見えた。
ひらひら、とその腕は動き、「やらかした」と。何がやらかしたんだ、と呆れながら本棚を押し上げる。山積みとなった本から人の姿が出て、私は吹き出しそうになった。
心配した私が馬鹿みたいではないか。
「いつも思うのだが」
「ん?なんだアガレス」
「その服はどうかと思う」
何処で買ったんだ?という、酷い柄のシャツ。猫なのか犬なのかわからない、とにかく動物らしき生き物の柄である。そして色は紫という残念なものだった。私ならば絶対着ない。
"能力持ち"でも珍しい"魔術師"の力で手を使わず本を戻していく「それで?」
「どうだったんだ」
「一応受かったが」
「おめでとう」
さらっと言われた言葉がむず痒く「当たり前だ」と言う。試験といっても、"能力持ち"ならばいろいろと免除されるのだ。
ただの報告に来ただけだが、と本棚を綺麗に戻した後、コーヒーを喉に流しながら一息。
「まだ配置場所は」
「わからない。ただ地方がいいな。都心は面倒臭い」
「じゃあここに住むか?」
「断る」
睨んでやれば、肩をすくめる。相変わらずよくわからん男だ。
助けられた当時からよくわからない変人だが、付き合うにつれてやはり……変人だと思う。