とある神官の話



「…貴方、ちょっとお酒くさいわね」



 椅子に座らずにいる私に体を近づけてきたアルエの体が傾く。そうさせたのは私だが「酔ってるの?アガレス」という声に「ああ」と返す。確かに酔っている。だが思考判断をまとめられないほどではない。

 まさか本当に夜這い?と冗談まじりに言った彼女へ、だったらどうするんだと言う。珍しくそんなことを返した私に、些か予想外だったらしい。




「え、え?」

「……お前が元気になったら、ノーリッシュブルグの演劇を見に行こう」

「アガレス…?」

「それからバルニエルもいい。自然豊かで、お前が住むならばいい環境かも知れない」




 ノーリッシュブルグの有名な演劇を見たい。雪合戦したい。花畑で寝たい。旅行したい――――彼女が話していたそれを、私はいくつ叶えられるだろう。
 私よりも早く時が過ぎる彼女のために、私は何をしてやれるだろう。
 出来るだけ、叶えてやりたい。

 私は、まだまだだ。
 セラのようにはいかない。わかっている。だが、私は私なりで彼女の側にいてやれたらと思った。

 手を伸ばす。
 彼女はされるがままだった。触れた頬から感じる暖かさに、生きていると実感する。



「―――好きよ。アガレス」



 彼女は私の手の上に、己の手を重ねる。好きよ。貴方はいつも優しくて、生きろと言って、私を守ろうとする。私は幸せ者だって自慢したくなるくらい。
 セラに感謝しなきゃとアルエは言った。彼女を確かめるように抱きしめた中で聞いた男の名に、思わず眉を潜めた。




「貴方がセラに拾われなかったら、私は貴方に出会えなかったもの」




 ―――ああ、確かにそうだ。
 感謝、している。

 例え、そう。私と彼女は種族が違っても、同じヒトだ。そして私より早く彼女が眠りにつくであろう未来まで、私は共にいられたらいい。

 何を恐れる?

 今はただ、彼女に生きてほしいだけだ。そして、彼女が幸せだったと目を閉じるまで―――――。





   * * *



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