とある神官の話


 鏡をチェックし、服装も整えた。

 枢機卿ならばともかく、枢機卿長が私に何の用事だろうか―――そこまで考えて、前にエドゥアール二世と話したことを思い出す。また私の過去関係であろうか。
 だとしても、だ。
 私には味方がいる。大丈夫だ。
 そう意を決して訪れた先に、先程会ったばかりの人物が座っている。




「さっき来てもらおうと思ったのですが、調べ物していたみたいでしたから。調べ物は済みましたか?」

「はい。済みました」




 ―――まだ足りないけど。
 ならばよかった、と座るようにいわれ私は腰を下ろす。アンゼルム・リシュターは書類に印をしていた。




「去年から貴方の活躍は聞いていますよ。他にも色々なこともありましたね」




 色々なこと、か。
 確かに色々なことがあったなと思い出しながら、気をひきしめる。

 リシュターは「ところで」と切り出したことに私は首を傾げた。




「君はヴァン・フルーレに行ったことがありますか?」

「いえ、ありませんが…」

「少し頼まれてくれませんか?ブランシェ枢機卿からは私から言っておくので」




 そういうと、リシュターは包みを私に見せる。少し見方を変えるとプレゼントに見えなくもないそれは、厳重に封じられている。プレゼントにはありえない術式で封じられているのだ。
 それを手に、リシュター枢機卿長の青色の瞳がこちらを見据えた。
 目。背筋がぞわりとする。

 ……何故私なのか。
 リシュターはただ、ヴァン・フルーレにいる神官にその包みを渡してきてくれとしか言わず、任せましたよとだけ。
 もしあれなら、護衛として誰かを連れていってもいいと言われたが―――。部屋を後にした私の手には包み。ヴァン・フルーレは聖都から距離がある。また旅か、とうなだれたくなる。

 アゼル先輩は不在。レオドーラはバルニエルだ。ランジットはどうだろう。ああでもゼノンの相棒だから難しいか。


 仕方ない。
 ただ届けるだけなら、平気だろう。


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