とある神官の話




 ああもう。
 ぐしゃぐしゃと髪の毛を掻きむしり、何やってんだろと思う。
 ハイネンから聞いた父セラヴォルグの話と、アガレスの話。一気に聞いたせいで頭がパンク状態だ。




「はぁ…」

「溜息つくと幸せが逃げるぜ?」




 やあお嬢さん、とウインクしてみせたのはラッセル・ファムランだった。
 元気か?、と大きな手が私に伸びて頭を強引に撫で回す。この人は何となくだが、"お父さん"というような雰囲気な気がする。私の父とはあまり似ていないが、そんな雰囲気がしてちょっぴりほっとする。




「ラッセルさん…!」

「おっと悪い悪い。何だ?調べ物か?」

「ええ。ちょっと……」

「アークのこと調べてんのか」

「えっ?」




 広げられていた本と書類を見て、ラッセルはそう言った。
 聞き返した私に、ああと笑ってみせる。アークというのはアレクシス・ラーヴィアの愛称だったらしい。

 彼がヴァン・フルーレの神官で、かつ優秀な研究者で――――本当に優秀な研究者だったらしく、様々な術式を解読したそうで、研究者ならば知られる名前だそうだ。



「といっても結構昔の人だし、今は知らないほうが多いかもな」




 へぇ。身近に研究者の神官がいないので、そっちのほうはわからない。
 ラッセルはたまたま知っていただけだそうで、彼も詳しくは知らないという「おおそうだった」

 何か用事があったらしく、ラッセルは顎を摩りながらちょっと言いにくそうに口を開く。




「フィンデル神官に用事が済んだら来てくれって伝言」




 誰から、と聞くまえにラッセルが口を開く。そこから出た言葉に私が「な、なんて」と驚くことになる。




「リシュター枢機卿長が呼んでる」



  * * *



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