とある神官の話



 しかし、だ。

 ヤヒアはずっとアガレスにくっついていた。
 アガレス自身、あんな事件が起こした本人であるが、完全なる闇堕者ではない。復讐を誓い動いているものの、目的以外の殺人はしていないはずだ。今まで彼が起こしたと思われる事件はあったが、それがアガレス自身が起こしたものか怪しい。

 そしてヴァン・フルーレに姿を見せたヤヒア。そこにはアガレスの姿はなく、変わりに死んだとされていたヴィーザル・イェルガンが姿を見せた。それにより、ヴァン・フルーレはてんやわんや状態となった。




「シエナ・フィンデルは巻き込まれてばかりだな。ジャナヤといい、今回といい―――辛いのは彼女自身だ。彼女が耐え切れなくなったら……いや、そうはさせない」




 あのセラヴォルグの義娘。残虐な実験の被害者。そして今回新たに発覚した、アレクシス・ラーヴィアの血縁者―――。

 ごく普通の娘だ。

 さすがはセラヴォルグの娘、ということもあって今時の若者とはややずれている様子もあるが、どこにでもいる娘。しかしそんな"普通さ"をまわりは許さない。

 いつになったら平和になるのか。いつになったら、彼女は幸せになるのか。




「アガレスがどう動くつもりなのかわかりません。しかし」

「なんだ?」




 この状態で再び、あの二十年ほど前のようなことを起こすとは考え難い。
 あの後、フォルネウスはやや強引に掃討したのだ。とはいえ、完全にとは言えないが……それでもあの当時とは違う。

 彼は、何を考えているのか。

 いえ、と言葉を切った私はそのままフォルネウスのもとを後にした。


 何かを忘れているような、抜かしているような…。
 この、何とも言えない嫌な予感は何なのだろう――――。







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