とある神官の話
「危険だから守るんだろうが」
はっとしてランジットを見れば、「あー、これはお前のセリフだな」と何故か照れる。馬鹿かお前は。だが、その通りだった。
エリオンが笑い、私が溜息。だがランジットの言葉通り、危険だから守る。そうだ。その通りだ。
顔を見合わせた私とエリオン。表情は互いに、決めた顔だった。
「戦争?反乱?どっちも来てみやがれ、ですね。ふふふ」
「あのえっと、バーソロミューさん?どっちも違う気がするんですが」
「ええそうですね。上等じゃないですか。叩き潰してやりましょう」
「あれ、ゼノンお前そんな危ないやつだったっけ?あれー?」
空気読めないランジットが小さく「奇人変人ばかりだな本当に」と頭を抱えるのは無視した。
やってやろうではないか。
冷たい笑みを浮かべながら、見えない、うごめく敵に刃を用意する。
* * *
――――聖都。
ぐっと春めいた季節。コートは不要になりはじめていた。街には成り立ての、やや緊張した顔の神官の姿も見て取れた。
そんな春の温かさとは別に、聖都にある宮殿の一室は肌を刺すような鋭い空気が漂っている。
それもそうだ。その一室は普段使う会議室ではない。
査問会が開かれ、その結果次第では投獄されても可笑しくはない、そんな場所である。
そんな場に今回召喚されたのは、首席枢機卿―――アンゼルム・リシュター枢機卿長である。彼は優しき賢者などとも呼ばれる者である。"事情"を知らない者たちは何故、と誰もが思っただろう。
彼は、何といっても二十年ほど前の"あの事件"でも生き残った人物だ。
そんな人物が、何故。
「フォルネウス」
―――判断は下された。
頭痛がするのか、こめかみを揉みほぐしながら机に向かっている教皇エドゥアール二世を呼んだ。
「謹慎処分を甘い判断だと思うか?」
そう。
査問会で下されたのは、謹慎。私自身、そうなるだろうとは思っていた。
「妥当でしょうね」
つい最近、このフォルネウスにもアガレスの件の過去を話したばかりだ。物事は大いに絡まり、今を作り出している。もう、"本当"を話すことを渋っている場合ではかなった。信じていないわけではなかったが、話せなかったのは私の弱さだとわかっている。
話すのが辛かった。
出来れば私だけで解決したかった。だがそれは、もう意味がない。
「妥当というより、本人もそうなると踏んでいた、とみたほうがいい」
「……だろうな。だがよ、ハイネン。俺はまたあいつを完全に黒だと判断していない。かといって白とも思っていない」
「ええ。貴方は貴方の見たものを信じればいいんですよ。私も似たようなものですから」
アガレスの襲撃後。考えればいくらでも動くことは出来た。しかも彼は当時枢機卿であり、のちに枢機卿長となる。いくらでもやろうと思えば出来たはずなのだ。
なのにリシュターは、わざわざその身分に見合うだけの、いや、それ以上の働きをしっかりしている。裏の顔を隠すためのカモフラージュだとしても、だ。彼は、裏を見事に隠している。それにはやはりヤヒアが絡んでいるだろう。