とある神官の話
別にどうでもよかった。仕事がどうした。既にこうなったなら、仕事など、どうでもいいではないか。
「リシュター枢機卿長」
入室を求める声に返事をし、向かい入れたのは一般的な神官の格好をした若い男である。もっとも、ここにくることが出きるのは限られているはずなのだが。
入ってきた男は「真面目だね」などといってのける。ただ者ではなかった。
今でこそ、見事に化けてみせているが、本来はこんな平凡な姿ではない「何も」
「したくてやっている訳じゃありませんよ」
「ふうん。でもさあ、ちょっとひやっとしたんじゃない?」
「その時はその時で考えてましたので。それよりあなたはどうなんです」
壁に寄りかかる男を見遣る。こいつもこいつで、私はあまり気に入らない。
にたりと笑ってみせている男は「さあねえ」と答えた。
「死体を一応探したけど、なんたって燃やしちゃったし…それに君の術も喰らってるんなら灰にでもなったんじゃないの」
全てにおいて邪魔な存在はいつだってあった。異端児やら化け物やら、適当に名前をつけてそれに呼び立ち向かう存在。全てが本当なのかかさえわからなくなっていたままならよかった。もっともらしい理由をつけて、送り出せばよかった。だが、そう上手くいかないのがこの世なのだ。
いつの時も必ず、邪魔が入る。
先回りしていたのか、"あの場所"に姿を見せたのが面倒だった。
――――私が殺してやる!
前に私が死にかけたかわりに、近距離で術式をかけておいたのが今になって芽を出す。
本当に死んだのか?
無言でいた私に男がその平凡な顔で、残忍な笑みを浮かべた。「僕は別に何でもいいんだけど」と続ける。
「私は動きを封じろといったんですが?」
「だからいってるじゃない。死んだかわからないって」
口振りだとまるで、"生きている"といいたげだ。肩をすくませて「で?」と彼はこちらを向く。
「いつまでここにいるつもりなの?」
いつまで、か。
溜め息まじりに、痛む頭を抱える。まだ少し、まだ少し時間が必要だった。
そう。
時間が。
しかし、だ。
既に準備は整いつつある。復讐には復讐を。誰が嘘つきで、誰が本当か?