とある神官の話
「さあ」
「さあって君ねえ……」
「出たいと思ったら出る、ではいけませんか?」
返したその言葉に「君らしくないね」と、男の鋭い視線が向けられる。かすかにちらつく炎に思わず笑いそうになる。
"らしい"とは何なのか。
君らしい、といい言葉の君は、どの私をさすのか……。
これだけ長い時かあれば、区別も難しくなるだろう。一体どこの誰なのか、わからないように。
「ま、いいけど。でも――――気をつけた方がいいよ、君」
意味深なそれに、どういうことか聞き返そうと思った。だがそれよりも先に男は「既に真実を、知って動いている者もいるしね」と笑う。この男にとって、全ては、遊戯に近いのだろう。ただ、楽しいかそうでないか。
既に知って動いている…か。
彼らもが一番厄介だ。だからこそ、いち早く勘づいたアガレス・リッヒィンデルの動きを封じたかったのだ。彼がどういうことをしたのかわからないが、まあ、よかろう。
書類を整理しながら、愉快そうな顔をしている男―――――ヤヒアに、私は言葉を投げる。
「あなたこそ、お遊びもほどほどに」
時は来た。
時は来た。
新たな時代の、始まりを。
完璧なる、力を。
* * *
―――――聖都
「何なんだ…?」
すっかり春…いや、やや雨が気になる季節になりつつある今日、ヴァン・フルーレから戻ってきた私とランジットはここ数日の新聞に目を通していた。
新聞には様々な記事が載っている。ヴァン・フルーレのあの事件も、だ。思わず眉をひそめたくなる。
苛立ち、不安、後悔がぶり返す。
あてられている机には嫌がらせとしか思えない書類の山があり、二人揃って顔をしかめたばかりなのだが。