とある神官の話




 どうしたんだ?と聞いたランジットに「実はですね」と表情を改めたハイネンはこちらに視線を向け直す。



「ラッセルと音信不通なんです」



 ノーリッシュブルグでフォンエルズ枢機卿への用事を済ませた後、なぜか連絡が途絶えた。ノーリッシュブルグの後は聖都に戻ってくるはずだったらい。
 だが、ノーリッシュブルグを出発するという連絡が来たっきり、今に至る。

 ハイネンはまずフォンエルズ枢機卿に連絡をとったが…ラッセルの行方はまだ掴めないそうだ。
 ラッセル自身"能力持ち"で、そう簡単にやられるとも……。



「―――――まさか」

「ここ最近、何者かがでばっている。民間人がどうのというわけじゃありませんが、かなり疑問ものです。闇堕者をそう簡単に倒されたら、それこそ正義の味方やら勇者やら呼ばわりされるでしょうね」



 書類らの中にある新聞の『正義の味方あらわる!?』というあれな見出しをハイネンの手袋に包まれた指先がそっとなぞっていく。
 ここ数日の奇妙な事件。謹慎中のリシュター枢機卿長。行方不明なラッセル。
 枢機卿長が動かしている?と私が聞けば、ハイネンが「と、思ってます」と返した。
 
 彼はシエナをヴァン・フルーレに向かわせた張本人だ。しかも、あのアレクシス・ラーヴィアが判断し聖都で保管されていた術式を無断で持ち出させた人物。そして最近査問会が開かれ、現在謹慎中。
 彼自体が直接は動けない
 新聞に載っている猛火と死体は無関係…なのだろうか?



「ヤヒアにしろ誰にしろ、何故闇堕者を殺害するのか。別件、とも考えにくいんですよねこうなっては」

「だがよ、ヤヒアっていったらアガレスに陶酔してるって――――ん?待てよ。去年あたりからなんというか…」

「アガレスよりも別に動いていた…?」



 それに、だ。



「復讐者として動いているだけなら、その辺の復讐者と変わらず、ヤヒアがいう"愉快さ"が足りない気がする。奴はそんな平和な人物を選ばない」




 ただの頭の悪い奴ならよかった。だがヤヒアはそうじゃない。
 笑顔で、人を殺す。本気で危険な男だ。
 もし、リシュターとヤヒアが手を組んでいたらどうなる。リシュターは優しき賢者や、あのアガレスの襲撃の生き残りなどとも呼ばれ、実績もある男は聖都…神官らの中で権力がある。それに皮肉なことに彼を慕うものもいる。



< 592 / 796 >

この作品をシェア

pagetop