とある神官の話



「何が起こったんだ……?正義の味方でも登場したってのか?」


 ランジットが新聞を手にしながら頭をかきむしる。それもそうだ。
 新聞にはあの、ヴァン・フルーレの事件の他に紙面を賑わせているのは、死亡記事が踊る。その死亡記事というのが、闇に堕ちた者…闇堕者らしき人物らの死亡記事である。
 各地でそれは発生しているらしく、ランジットがいう"正義の味方"という冗談でも言いたくなるのもわかる。

 神官でさえ手こずる相手が、すんなり倒されている。しかも各地で、日付もだいたい固まっているのだ。妙すぎる。



「おい、これ見てみろよ」

「……なんだ?」

「廃墟跡で猛火。しかもよ…」



 ランジットが見やすいように新聞を広げる。そこには「意味がわからない」と思わず言ってしまうようなものがあった。
 闇堕者の複数の死体、周囲には猛火となにかによってさらに破壊された残骸らしきものが写真に載っている。端には神官らしき姿も見える。調査に入っているのだろうが…。記事によれば、死体はほぼ判別がつかないほどになっているらしい。

 猛火。残忍な殺害方法。
 ―――ぴんとくるものがあった。

 闇堕者が、何故こんなに死んでいる?
 


「ヤヒア、だと思うか?」

「どうだろうな。ただ、妙だ」

「だよなあ」



 何故?
 闇堕者は基本捕らえるようになっている。とはいっても、その多くは激しい抵抗を見せる。そのため戦闘になり、闇堕者を、死亡させてしまうといいのもあるのだが。
 神官と戦闘する前に、何故。

 ここ最近続いているそれに、ロマノフ局長らも忙しいようだ。神官以外の誰が…。
 そこまで考えて「リシュター枢機卿長はまだ謹慎中だ」と漏らす。彼自身が直接動くといいのは考えにくい。なら、手駒が動いているとしたらどうだ。
 アガレス・ヤヒア…。ヴィーザル・イェルガンは聖都にて牢にいるし、何より彼はリシュターを殺害云々といっていた。

 ヴィーザル・イェルガンとリシュターの間に何があったのかわからない。ただ――。
 溜め息がでる。



「何であれ、いろいろと覚悟は必要かもしれないな」



 ランジットの言う通りだ。
 こう、いろんなことに変わりつつある私もランジットも、危険といったや危険となってしまった。身の回り…自分の身は自分で守らねばならない。

 何が起ころうがなんだろうが、終わらせてみせる。そして、また笑う日々に戻す。そう、決めていた。




「おやおや男二人して密談ですかいやらしーですね」

「うおっ!?い、いつのまに来たんだよハイネン」

「ノックはしましたよ、一応」

「一応ってなんだよ、貴方…」



 少し前ならこんなに親しい(?)感じではなかったはずのランジットも、この人に対して丁寧に言葉を発するのが面倒になったらしい。ハイネンはハイネンで、つっこみ役という名のいじり役がいて愉快だというように見える。
 つい最近枢機卿となり仕事が増えたはずなのだが…。相変わらずほっつき歩いているしい。





< 591 / 796 >

この作品をシェア

pagetop