とある神官の話
目的は、何なのか。
わからないと首をふるファーラントは「奇妙な事件が各地で多発しているだろう?」と続けた。
「それとまた関係があるのか…。ノーリッシュでヴィーザルがやられたのを考えると……」
「シエナ」
思案顔になったファーラントがアーレンスにそっくりだな、だなんてふと思った時だった。レオドーラが戻ってきて「大丈夫か」などとファーラントと軽く会話をした。
そして、「話がある」といって私を医務室の外に連れ出していく。振り替えったらファーラントが片手をあげて気にするな、と笑って見せていた。心配だが、と再びレオドーラの背を追いかける。
彼の雰囲気からに、何かまたあったのだろう。そちらだけでもう気が重い。
だが、聞かなければ。
知らない方が辛い。
医務室から少し離れたところでレオドーラが止まり、こちらを向いた。
「ロッシュ高位神官から話を聞いてきた」
「それで」
「……お前、さ」
「なに?」
言葉が途切れる。不自然なそれに眉を潜める。言い淀むほど、何か悪いことがあったのだろうか。
レオドーラは「いや、まあそれはいいとして」と自己完結。いやいやいや何よ、と聞き返しても彼は首をふり強引に話を変えてきた。
それはノーリッシュブルグで起こった事件について。ヴィーザルへの襲撃の詳細から始まったが、次に話したそれに目を見張ることになった。
待って。
言葉を失う私に、そりゃそーなるよなとレオドーラが頷く。
「だって、聖都だよ?首都の宮殿から消えるって――――」
「お、落ち着けよ」
「落ち着いてられるわけないじゃない。だって、だって」
聖都はフィストラ聖国の中心だ。多国でいう国王の地位が教皇としているこの国の中心。警備や、魔物の侵入を阻むようになっている。そんな中で、監視下となっていた人物が消えるだなんて可能なのだろうか―――。
ヴァン・フルーレあの件の後に、アンゼルム・リシュター枢機卿長は謹慎処分となった。そこまでは知っている。
仕事はいつもと変わらないが、謹慎中なので行動が制限されていた。監視もついていたはずだった。
しかし――――彼は聖都の宮殿から姿を消したのである。
監視がいて、謹慎中故に部屋も別だった。どんな風に監視していたのかわからないが、宮殿でのことだし、手緩いものではないはずだ。そんな中でどうやって姿を消したのか。しかも彼は、"優しき賢者"などという肩書きを覆すようにその時の監視担当を殺害していたという。
そんなことがあって表沙汰になっていないが、宮殿内は大混乱らしい。
当たり前だ。
"あの"枢機卿長が、と"事情"を知らない多くの者は何故!と首を傾げるだろう。
……?
急におとなしくなった私に「お、おい急に黙るなよ」というレオドーラへ私は「あのさ」と思ったことを口に出す。
「今の状況、アガレス・リッヒィンデルの時に近くない?まさかあの人がって」
「んあ?ああ…まあ、言われるとそうかもしれねえ――――話にはまだ笑えない続きがある」