とある神官の話



「ジャナヤにいた連中と連絡がとれない」

「なっ」




 力が抜けそうだった。
 あの土地はもう、神官らが交代で駐在することになっている。あれだけの凶悪なことがあった土地故に、ならばと封印してそのままとするのではなく、封印し清めた上でも管理をすることになっていたはずだ。
 私たちがジャナヤでハインツ…ウェンドロウの件を終えた後はハイネンらも管理に変わっていた。しばらくラッセルがいたこともある。

 あんなことを引き起こさぬように。

 いつから連絡が取れなくなったのか、それは数日前といわれるが、ばれないように時間稼ぎされていたのかもしれない。数日前だなんておかしい。もっと前からなにかしらあったのではないのか。
 ジャナヤとの連絡が取れない以上、なんともいえない。




「それから」




 まだあるのか。
 私は苛立つ。色々と沸騰してしまいそうだった。
 そんな私をよそに、腐れ縁であるレオドーラが冷製なままだからまた私も落ち着かなければと思える。
 




「あいつが……ゼノン・エルドレイスが意識不明だそうだ」

「!」





 ゼノン・エルドレイス。探せば同姓同名くらいるだろう。だが、高位神官で、聖都にいて、私の過去を知っていて――――ストーカー予備軍なのは、彼しかいない。
 私の知る、ゼノン・エルドレイスだ。
 何で。
 その言葉は音にはならなかった。ただ唇を震わせるだけ。

 一歩、後ろへとよろめいた私の腕をレオドーラが掴んだ。





「おい」

「それより、どうして!」

「……聞いた話、あいつはランジット・ホーエンハイムに少し出てくるといって出ていったらしい。行き先は教皇、要は養父に会いにいったそうだ。前者はホーエンハイム、後教皇本人の確認がとれている」





 仕事をしていて、ゼノンはランジットに出掛けることを告げた。そして向かったのは教皇エドゥアール二世。私も会ったことがある。本来ならばそう簡単に会えないはずであるが、エドゥアール二世に最初から話をつけていたのだろう。
 そして、彼はエドゥアール二世と実際会った。
 そして、退出後何があったのかわからないが宮殿の廊下に倒れていたらしい。

 何があったのか。
 ロッシュのもとにそう連絡をしてきたのはハイネンだった。彼からの情報ならば本物だろう。

 各地で起こる奇妙な殺人。襲撃。アンゼルム・リシュターの逃亡。ジャナヤ。

 処理しきれない。
 

 ―――――考える。
 最近、アガレス・リッヒィンデルは全く姿を見せない。見せるのはヤヒアばかりであった。本当の黒幕の存在と、アガレス・リッヒィンデル。あのアレクシスの術式と私。
 アガレスは、闇堕者ではないなら、今何をしている?
 あのリシュターを殺そうとしていたなら、今は…?何故出てこない?こんなに混沌としている状態なら出てきてもおかしくないのに。

 



「私」

「行くなよ」



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