とある神官の話
――――エリオン・バーソロミューはその日、自分にあてられた部屋に引きこもっていた。
部屋の扉には、訪問者拒否などという紙が貼られていた。まあ、貼らなくても彼の部屋にはあまり人は入りたがらないのだが。
乱雑とした部屋には、いくつもの守りの術がかけられている。彼は"能力持ち"で、それも守護、つまりなにかを守る力にたけている。そんな能力を使った部屋には、彼が張り巡らせた術が揺らめいている。
それだけ気を使っているのには理由があった。
彼が今見ている、広げているのは様々な術式や古文書である。彼は神官ではあるが、そういったものを研究する研究者であるのだ。
先日のヴァン・フルーレの件もあってからか、"あんなこと"があった聖都同様にぴりぴりとした雰囲気が漂っていた。が、第二のハイネンなどと呼ばれている変人エリオン・バーソロミューにはあまり関係ない。むしろ―――――にやにやして奮起している。
彼が今見ていたのは、あのアレクシス・ラーヴィアが研究していたものたち。もちろん本来ならばこんなところにある代物ではない。アレクシスの研究したもののほとんどは聖都で厳重に保管されているものばかりだ。彼がこうして見ているのは、枢機卿になったばかりのヨウカハイネン・シュトルハウゼンらのお陰なのだった。
アレクシス…通称アークが研究していて、かつ守ろうとしたもの……。
「一体何を封じたのやら」
彼が命をかけるほどの"それ"。
危険だと判断したからこそ、"生きた管理者"としたのだろう。だがそれにも疑問がある。本当に危険なら、破壊してしまえば良かったのだ。
彼は、それをしなかった。
エリオンはわからないな、と呟く。
"生きた管理者"であるシエナ本人がいれ塲ば――――。
しかし実際、いても意味がない。エリオンが優秀であってもきっと、彼女自身にある術に拒絶されてしまうだろう。
拒絶されるという経験も是非体験したいものだが……。
まるで実験的な考えだ。
こんなことを思っていると、彼女にほの字なあの人に半殺しにされかねない。エリオンは思わず想像してしまい、ひとり身震いをする。
此方側が探ろうとすれば拒絶…。いや、拒絶というよりも防衛本能のようなものであろう。
アークはともあれ、シエナを救い娘にしたあのセラヴォルグも何かしら関わっている。彼もまた実に興味深い。流石、というしかない。