とある神官の話
エリオンはヴァンパイア達が使っていた古い文字が並ぶそれを見る。
紙切れとはいったが、元は一冊の手記のようなものだったのだろう。本を無理矢理ばらばらにした、その一部といった感じであった。
エリオン自身、職業柄読めないことはない。ただ、ヴァンパイアたちに比べたら訳にも多少誤差があるだろうが、それでも十分理解できる。
その紙切れには、別の読み方もあるが"シュエルリエナ"とある。
そして、それに封じられたらしき術式についても多少なりともあった。しかしそれらはやはり紙切れ。肝心なところがすっかりないのだ。こんなことは古い文献などではよくあるので落胆はしないが、残念さはあった。
―――アレクシス・ラーヴィア。
シエナに封じられた術式の一部が綻び、それに己の魂の一部を封じていたアークが姿を晒した。
そしてそれに、あのヤヒアが「大量殺戮兵器でも封じたんだと思ってたんだけど」といったらしい。
それが意味するのは?
つまり、もしかすると……。
ヤヒアたちも、どんな術式か今一つわかっていないのではないか?
あの紙切れの"シュエルリエナ"は、シエナ・フィンデルのことをいっているのは確かだろう。
アークの血縁者がシエナで、彼女にはアークが最期まで守ろうとした術式が封じられている。アークが亡きあと、何がどうなってシエナまで無事だったのかも引っ掛かるが、まあいい。
彼女に封じられた術式は、簡単に取り出せない。本人にのみ。しかもそれは本人が強く望まない限り取り出せないと。そのこともエリオンは引っ掛かる。
危険なら破壊してしまえば良かった。
なのに彼はそれをしなかった。
破壊してしまえば、悪く言うようだがあのシエナがこんなことになることはなかっただろう。悪にそれが渡り、災いを撒き散らされるよりはマシだ。
そして、ヤヒアの言葉。
大量殺戮兵器でも、ということは術式はそういうものではないということか?しかし相手はヤヒア。信用ならないのはわかっている。しかし、彼らは彼女を狙う。それだけの価値はあるのか……。
他にもまだ引っ掛かる。
セラヴォルグも彼女に守りの術をかけている。彼は、アークが守った術式がどんなものか知っていたのか――――。
溜め息。
アガレス・リッヒィンデルが起こしたあの事件よりもわからない。