とある神官の話
女性はさらっとそういい、『貴方がいったんですよ』と私にいう。
何を?私はわからない。
『何をって、お昼ご馳走するので門のところで待ってて下さいって言ってたじゃないですか』
『私が?』
『待ってても全然来ないし、何故かこんなところで突っ立ってて……ほら、行きますよ!』
『あ、あの――――シエナさん』
――――そうだ。
この人の名前は、シエナだ。私の好きな人。辛い過去を持つ彼女が、私の手を掴んで歩いていく。
まるで、恋人同士みたいだ。
向こうからまた、見慣れた姿を発見する。名前は、名前は……ランジット・ホーエンハイム。私の友人、のはず。
彼はシエナに笑みを向ける。こちらには『いいなー羨ましいぜ』という。羨ましい?
シエナは私を引っ張る。
『シエナさん、なんですか?本当に?』
『ゼノンさんこそ、どうしたんですか。なんか変ですよ』
変?確かに可笑しい。私はゼノンだ。ゼノン・エルドレイス。本当に?そうだ。私は、ゼノンだ。
道の途中で立ち止まったシエナが、こちらを見る。吸い込まれそうな瞳が、私を見透かすようで居心地が悪かった。彼女らしくないそれに違和感。
これは夢なのか?夢なはずなのだ。
なぜなら私は確か――――――。
シエナが急に、私に近寄る。
近い。後退りしてしまいそうな距離だ。いつもならこんなことはなくて、彼女は怒る筈なに、何故。
全てが、違和感だらけだった。
『ほら――――行きますよ?』
彼女が私の手をとり、再び歩き出す。それに私は、引きずられるように着いていく。
違和感を抱えたまま。
* * *