とある神官の話
「見た目に騙されてる連中が多いからな。俺はいいと思うぜ。本来の中身が出てくるのは」
押し殺した"中身"、か。
長い間そうしてきたから、たまにどれが自分なのかわからなくなる。
いっそのことぶちまけましょうかね、と漏らしたら「シエナさんが引くだろ」と言われはっとする。
シエナさん!
思い出した。興奮してがたんと立ち上がったら、その勢いで椅子が倒れた。
「な、なんだよ急に」
困惑顔のランジットを無視し、さっと椅子を元に戻す。そして座って「名前」と言った。
そう、そうなのだ。名前!
「ついに私も名前を呼ばれたんですよ」
「へー」
「反則ですね、あれは」
「(惚気んなよ)」
完全に思い出してとまらず、書類が進まない。ああ困った。「俺も仕事仕事」と手を動かすランジットを無視しながら、しばらくそれに浸る。
まずは一歩前進。
そう漏らしたら私に「お前重症だな」というランジットの言葉は聞こえない。
残された書類がすべて片付いたのは、夜に入る少し前となる。
Chapter1
終