とある神官の話
ハインツとして再びシエナの前に姿を見せるまで数年間がある。その間にまた新たな何かを使えるようにしていてもおかしくない。
リシュターが関わっているならなおさらだ。
「入れ替わりで考えると、魂だけ別人となるというのは悪い使い道のほうが多い。表裏一体という感じがしないだろう」
「使えないことはないだろうが、な」
なら、例えば?
ゼノンはいくつか考えていた。策を練るためには必要なのだ。
シエナには価値がある。眠る術式。入れ替わりを望むだけの何かとは?「そういう奴らって」腕を組んだランジットが「時間いくらあっても足りねぇってなるだろうな」と呟くようにいった。
確かにそうだろうが……。
「ほら、神官の研究者でもよ、先輩のを引き継いでやることもあるだろ?研究が好きな奴だったり、やむを得なくっていう奴なら、もっと時間があったらって思うだろうなって。いくら元気でも寿命はあるからよ」
ゼノンは身近にいる研究者、エリオンを思い出す。
見習い時代から知っているが、あれは根っからの研究者肌だった。彼なら、自分が研究しているもの、術式はなんとか自分でやってしまいたいと必死になるだろう。
「寿命って要は時間だろ。もっと時間があれば、若ければ、ってな。寿命が長くても寝たきりとかならば研究出来ないから、やはり寿命と体の二つくっついた問題になる。だから」
「その二つが解決するものだと?………」
「な、なんだよその顔は」
「お前、意外に考えているんだな」
「お前さ、俺がどんだけ戦闘だけだと思ってんの」
事実だろ?と毒づけば「ひでぇな」と苦笑する。
しかし、だ。
ランジットは鋭いと思う。ウェンドロウが何故ハインツとして姿を見せたのは、未練があったからだ。肉体を失い、また新たなものを手に入れるために姿を見せた。寿命、肉体の衰え。逃れられない死。
生きているならば必ず死ぬ。しかし、少しでも長く生きていたい。生きている時間があればあるほど、いろんなことが出来る。
入れ替わる方法。
全く別人になれは、その人の人生ごとものにすることが出来る。"私はこの人じゃない"といっても、誰が信じようか?
心配なら古い肉体に移った者を殺してしまえばいい―――だが、それでは"自分"が消えてしまうのではないか?肉体と魂は一つずつである。入れ替わったとしても、肉体がもともとその人のものではないから、新しく入り込んだ魂を拒絶するのではないか。
魂は傷つくだろうし、何度も繰り返せばいずれ堪えきれず破滅する。
「入れ替わるとか面倒だから、奪えたら楽だよなー。装備を変えるみたいに」
やけくそのような言葉だが、ゼノンは暗い顔のままだ。
相手から寿命を奪い、自分に反映することが出来たら――――冗談じゃない。そんなことあってたまるか。
与えもし、奪うこともする。本当にそんなものがあったらどうなる。
危険、すぎる。
ゼノンはもし、をいくつも考えていた。シエナはどうなる。他に何か切り札を持たれていたら?
ありえない。ありえない?本当にそうか?繰り返しそう問いかける。