とある神官の話
「緑化といったらバルニエルのロッシュだが…味方かどうかはわからねえな」
「わざわざここにいるなら、可能性は無くもないだろうが」
「んで、どーするよ」
アゼルやラッセルは、まだ表上まだ行方不明中ということになっている。味方がいるなら合流という方法もあるだろうが、アゼルにはそのつもりはない。どうせ自然と合流するだろうから。
それなら、やはり急いだ方がいい。
暑さにくらりとするが、倒れている暇などない。アゼルは蛇のような魔物を一刀両断しながら「行こう」声をはる―――はずだった。
なんだろう。
アゼルには一瞬何が起きたのかわからなかった。気がついた、いや、我に返った時にはだだ、腹が熱い、と思った。
かろうじて地面を蹴って二回目はさけた。が、地面に転がり熱さが痛みにかわり、唇をかむ。
――――悲鳴。
死神というイメージがもたれるのは幽鬼と姿が似ているからだ。大鎌を持った者、だからだろう。
命を刈り取る刃。
「おい!アゼル!」
「……わめくな」
ラッセルが賭けより、アゼルの傷を確認する。痛い。
だがそれよりもとアゼルは八つ当たりのごとく幽鬼に向けていナイフを投擲。あたるが、それだけでは向こうは倒れない。
真っ黒な全身は揺らめく。幽鬼ではあるのだろうが、少し違う気もする。対峙するアガレスの表情は険しいまま、残る大鎌を持つ幽鬼を見ていた。
『……タス……テ……コワイ……クル…イタイ……』
男や女、子供や老人などの声が混ざったようなか奇妙な声だった。
アガレスは大鎌を受け止めつつ流し、切る。しかしとらえられず回避。続けて剣を、と向こうの大鎌の攻撃をうけて出血。だが深いものではない。気にせず、向かっていく。
敵だけが元気である。
「なんかもう、泣いていいか」
「やめろ気持ち悪い」
ラッセルはアゼルの応急措置をし、二人して笑って立ち上がる。
まだまた、殺られてたまるか。
アゼルは無理がない程度に、ラッセルは炎を駆使して戦う。アゼルがあれこれ大きく動かずともラッセルとアガレスで十分だろう。アガレスが大鎌と衝突、離れる。
本当に強い。
神官にとって彼は捕らえるべき人物だ。が、今は奇妙な関係だと思う。敵だと厄介だが、味方だと心強い。
アガレスは大きな槍を生み出し、近距離から投げる。耳をつんざくような悲鳴が響き鈍らせようとするも、もう意味がない。縫い付けるようにアゼルのナイフが突き刺さり、猛火が身を包む。槍は突き刺さり――――沈黙。
なんだか力が抜けた。腰が地面へと落ちる。
そんなアゼルの痛みが引いていく。近寄ってきたアガレスによるもので「魔術師の能力持ちってのは、反則だな」とラッセルがもらす。確かにそうだ。能力持ちのなかで、万能であるというのが、魔術師なのだから。
淡い光と癒えていくそれを感じながら、回りを見た。なんとも酷い有り様だった。炎やら何やらで緑が消えてしまっている。
炎がくすぶっているそれらを、アガレスが消していく。治療も終わったらしい。助かった、というば無愛想に頷いてみせる。だが、「なんだ?」アガレスはまだアゼルへと視線を注いでいた。
「――――やはり女は強いな、と思っただけだ」
「ぶふっ…!」
見守っていたラッセルが吹き出す。アゼルはぎろりと睨んでやるが、効果はない。
「当たり前なことを言うな。お前ら男があほんだらだから、強くなるしかないんだ」
「え、俺も入ってるのか」
「間違いではないだろう」
「出たよ女王さま!」
訳のわからぬことをいったラッセルは溜め息まじりの苦笑。
アガレスもまた、ふっと笑ってみせた。
「その通りだ―――いつだって女は、強く逞しい」
―――そう、そうだ。
アゼルは今ここにいない、とある男の顔が浮かんだ。全て済んだら飲みに行きたいものだ、と思う。
全て終わったら――――。