とある神官の話
「やはり、レオドーラにアーレンスらのことを知っている事実を話すべきではなかったかもしれないな。探ってくるのが厄介すぎる」
「今さら遅えよ」
マノは、「そうだな」と砕けた右手のほうをまた布を巻きなおしながら言う。利き手は右が一般に多いが、マノは左でも問題ないらしいことは知っている。
「私は、知り合いに会うのが少しだけ怖いのさ。せっかく忘れてくれたり、または過去の思い出としているのを、掘り起こしてしまうからな」
悲しまれたなら、尚更。
また別れが来たら、悲しませてしまうから。
―――どうしてお前は死んだんだ?
今マノの吐露するような言葉を知ってしまったからには、いや、知らなくてもいうことは出来ない。
ああ、本当に。
汗を拭いながら、騒がしい方へ視線を向ける。ここからではなにも見えない。だが、なんというか、感じるものはある。
「さて、問題は向こうだ」
マノは気を取り直したようにいうと、「行くぞ」と。
もちろんそれにレオドーラは従うが、心の底に浮かぶ形のないものを処理しきれないままでいた。
「ああ――――」
* * *
―――美しい人形がいきなり崩れた。
「おいおい、一体何だってんだ?」
顔立ちが美しい人形が、動きを止めたかと思ったらいきなり崩れ落ちた。
人形と戦っていたラッセルは、まとわせていた炎を消しながら呟く。同じように戦っていたアゼルもまた、目の前で倒れた人形に眉を潜めていた。
が。
美しい人形は動きを止めたが、飾り気のないいかにも人形、といったものや大きな蛇のような魔物などはまた動いて襲ってきている。
「何だ。顔の綺麗なのばかりじゃねえか」
「操る者が違うということなら、その者になにかあった、とかか?」
「ヤヒアが、か…?あんまり考えにくいが…」
――――カルラス地方に足を踏み入れて、少し。
"あの地"に関して、アゼルは知っている。シエナの過去を知っていることからのものだが、まさか、と思った。アガレスがその地へ行くことを決めたときはあまり信じていなかったのだが……。魔物や人形に幽鬼などあれこれいるなら、"当たり"かもしれない。
この美しい顔の人形はヤヒアの趣味だという。アガレスがそういっていた。一時期側にいたから知っているのだろう。
ヤヒアらしいといったららしいのだが、人に近いから心理的に倒しにくい。そんなアゼルやラッセルをよそに、アガレスは能力を使って容赦なく打ち砕いていく。もちろんそのあと、アゼルもまた能力によって引き出した武器を使って、叩き潰していた。
アゼルは汗ではり付いた髪の毛を払いながら「なら、誰が倒した…?」と思う。
アゼルらがここへ来たときには、すでに周辺は騒がしい何かがあった。―――自分達の他にも、誰かが来ている。それは味方なか、あるいは別のなにかなのか。
もしかして、アゼルは思う。
ハイネンらではないのか。
遭遇しなくてはわからない。が、うまく遭遇出来るかどうか。
もっとも、ここからすんなり進めるとは思っていない。すぐ近くにはまだ人形や魔物が襲いかかろうとしている。
一体何が起こっているのか。
もう意味がわからないな、とラッセルがもらす。そんなのはずいぶん前からだろう。ヤヒアがここにいて、何者かによっの倒されたというなら、それはそれで良い。
「――――あれは」
周囲は木々や植物が繁っている。だから別に緑があることはおかしくない。おかしくない、のだが…どうみてもあれはおかしい。
飛び抜けて大きな木が存在しているのは、不自然である。
あんなに木や草が一瞬にして大きくなり、または動いたりなどする、だなんて普通じゃあり得ない。能力持ちがいるのだ。
たぶん、能力は"緑化"。
―――バルニエルの、"ロッシュ"
アーレンス・ロッシュか、またはその息子か。また彼とは限らないが。