とある神官の話


  * * * 






「なんつーか」



 木々を抜けると、広い場所に出た。いきなりそんな風に出るのは何だか奇妙で、その先にあるものもまた同じ感想を持つ。




「お化け屋敷みたいだな」

「子供の感想か」

「いやだって、見てみろよ。ボロボロだし、出そうだぞ」




 キースがランジットらしい発言に呆れているが、確かにボロボロだとエリオンが呟く。
 それから、そんなお化け屋敷(ランジットいわく)よりも奥、近くにはまた何か見える。別館のように見えるが、よくわからない。

 ジャナヤと同じくらいの規模、か。

 表上、"屋敷"であったそうなので、当時はそれなりに美しい姿を見せていたことであろう。だが、あちこち解体作業でもあったのかと言いたくなるくらい、内部まで見えているし崩れている。
 例えはあれだが、ランジットが言っていたお化け屋敷も、間違いとはいえない。


 しかし。
 内部にはあちこち手が加えられており、地下も存在する。

 大きな建物だ。これだけ大きな建物ならば普通目立つが、山の中ということで目に触れるのが限られたはずだ。それに、うまく隠すためになにかをしていたはずだ。
 今ではこの近くには人は住んでいない。元あった集落もさっぱり人の姿はない。

 屋敷の立派な門はまがってしまっていて、そこには蔦のような植物が繁っていた。


 アーレンスの"緑化"のこともあってか、建物のまわりには木や植物が多く、廃墟も化している――――ように見えるが、不自然なところもある。取り払われているような痕跡があるのだ。
 


 ゼノンは剣を握る手に力がこもった。

 静かだ。
 いや、遠くでまだ音がするが、ここは静かだった。




「本当にここから入るんですか。普通もっと目立たない侵入口を探すのでは?」

「面倒じゃないですか」




 さらり。
 エリオンが目を丸くしたが、諦めて黙る。




「それに、ほら、どこにいたってデンジャラスなのは変わりませんし」

「おい」



 ランジットが突っ込みをいれる。キースはもはや無言。ゼノンは諦めを通り越して聞き流した。
 ハイネンが変人奇人で普通を通り越しているのは誰もが知っていることだ。
 もっともこのタイミングでいうような言葉じゃないもは思うが。


 ハイネンは植物が繁っている門を押して開いていく。植物が切れる音がした。

 
 ハイネンのいっていることは、正しい。こうなった以上、どこから何が出るかわからない。何が起こるかも。

 なら―――立ち向かってやる。
 慎重に、それから警戒は滞ることなく、いつでも動けるように準備しておく。



 建物正面入り口は、まるで誘っているかのように少し空いていた。
 どうする、と聞く前にハイネンがその扉へと手をかけたので、緊張が走る。

 踵が音をたてる。扉の先はいかにも古い館、といった姿が広がっていた。だが「黒い染みがあるな…血か?」黒い染みはいくつもあって不気味だ。
 地図は大体頭に入っている。だが、その通りに行けるかといったら否だろう。変えられている可能性がある。


 大きな広場を見渡し、二階へと続く二つの階段の先に美しい顔が見えた。人形だ。ヒトよりも整いすぎた美しい顔と体。

 その目が、こちらを見ていた。




「ご苦労なことだ」




 美しい容姿に不釣り合いな声だった。




「といって、私たちが来ることをわかっていたようですが?」




 人形は階段近くに立っていた。廃墟のような場所に佇む美しい人形といった光景だけなら、何もなかっただろう。
 

 だが、人形を喋らせている正体がわかっている。


 そして、ここで何があったかを知っているゼノンらに不快の表情が宿る。それから、焦燥。




「たかが一人のために、死ぬ覚悟で来るなんて―――愚かだ」

「愚かで結構。シエナはどこです」

「言うと思うか」





 嘲笑うようにいうそれに、ランジットが身構える。すぐさま飛び出せるようにじっと待っている。
 ハイネンは動かない。
 ゼノンもまた、焦りを押し殺す。




「何故です。リシュター枢機卿長」

「理由は必要か?――――その名前にも意味がないから、無駄だ」








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