とある神官の話



  * * *





 ――――身柄を保護させてもらいます。


 そこにはベッドと、椅子と、小さな机がある部屋だった。
 
 淡々と今置かれている状況を話されている間、あれは全部夢だったんじゃないかと思った。ぼんやりしている私に構わず説明し、妙なことをするなと言い、彼らは出ていった。妙なことはしないように。妙なこと、か。
 そんなこと、出来るはずない。
 それでも私は能力持ちである。不安要素があるなら、ということなのだろう。

 
 この部屋は白っぽかった。
 まるで病院の一室のようだが、違う。ここは病院ではない。宮殿の中にある特殊な部屋の一つ、だそうだ。特殊な、ということはつまり、"能力持ち"に対応しているということだ。
 



「まるで囚人ね…」




 今は、投獄されて者らとたいして変わらないのかもしれない。彼らと違うのは、"私"は闇堕者ではないということ。


 自分でも、自分が怖いと思うことがある。


 よくわからない力を持てあましていた自分に、父は扱い方を教えてくれた。
 扱い方を多少なりとも上手く出来るようになったが……。能力持ちの"魔術師"は、能力持ちの中でも何でも出来る。炎だったり、氷だったり、風だっておこせる。つまり、訓練やその人自身のよって出来ることがかなり広がるのだ。


 "何でも出来る"は、敵、闇堕者なんかにいるとかなり厄介となる。ただでさえ能力持ちの"魔術師"は少ないとされるから。

 
 私は、過去に問題を抱えている。
 だから余計に危険視されているのだ。
 
 父はそういう状態から守ってくれていたのだ。聖都から遠ざけ、ひっそりと。後にそれはアーレンス・ロッシュに変わられた。今ではハイネンらも加わり、私は多くに助けられている。


 彼らが命を張るほどの価値が私にあるのか。私にはわからない。


 ―――頭の中はぐちゃぐちゃだった。


 ベッドの上に体を倒して、溜め息。眠れたらと思う。だが眠気はない。
 そんなとき、扉がノックされた。慌てて体を起こして、髪の毛を手櫛で整える。はい、という返事が少し上擦ってしまった。




「やあ、シエナ」

「ハイネンさん」

「と、俺だ。邪魔するぞー?」

「猊下!?」




 日差しが強いのか、包帯ぐるぐる巻きのハイネンの後ろからは、亜麻色。少年を思わせる笑いかたをする教皇エドゥアール二世に、私は驚いて慌てて姿勢を正す。前者だって私より位が高いのだが、教皇となるとトップである。会ったことがないわけではないし、話したことがないわけでもない。だが緊張してしまうのは仕方ないではないか。

 入り口には武装神官がいて「猊下、我々も」「お前らは外でまってろ」「しかし」「なに、ハイネンがいるから平気だ」という会話をしたあとに、扉が閉まった。

 すると、猊下が「あー、書類ばっかで退屈だったんだぜ」と肩を回す。

 前にも話したことがあるからわかるが、このエドゥアール二世はゼノンの養父である。かなりフレンドリー(?)な話し方をするのだ。ちょっと戸惑う。
 それにたいしてハイネンもハイネンで「みんなそういうものです」と真面目に返したのだか「どうせお前は逃げたくせに」「もちろん」「即答するなよ」ということらしい。今ごろ神官が嘆いていることだろう。


 それぞれ椅子に腰かけた。




「体はどうです?違和感とかないですか」

「無いです。ただ、まだちょっと怠いくらいで」




 私が最初に目を覚ましたときに、ハイネンから何があったのかを全て聞いていた。

 私は全てではないが、断片的に残る記憶をすでにハイネンらに伝えているし、猊下も知っている。
 そしてその時、彼らの前で泣いてどうしようもなかった、というのも彼らは知っている。そのとき、猊下がやや乱暴に抱き寄せて、背中をあやすように軽く叩いてもらったのは―――今思うとすごいことをさせてしまったと思う。


 それから、だ。
 枢機卿らが集まって話し合いが持たれることも聞いていた。




「まだ面会制限があっから、あいつが煩くてな」

「あいつ、ですか?」

「決まってるじゃないですか。ゼノンですよ。あとはアゼルです、といっても、みんな心配してますよ」




 現在、私は面会制限がある。
 猊下や枢機卿のハイネンらのような人物はともかく、その他は面会出来ない。
 本来、ハイネンも今回の事件の関係者なので会うことができないはずなのだが、特別に代表者として来ているのだ。

 私はゼノンとレオドーラがにらみ合いをしているのは記憶にあるが、それからはわからない。みんな怪我をしていたり、ぼろぼろだったから、心配だった。



「あ」

「何だよハイネン。トイレか?」

「ハナタレフォルネウスじゃあるまいに――――ふふ、もしかしてと思って」

「あ?」



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