とある神官の話
教会の鐘が鳴り、式の出席者がそれぞれ祝福の言葉を投げる。
今日はとある人らの結婚式だった。
天気は晴れ。
青々とした空の下、そこには白い婚礼衣装に身をつつんだ女性の姿があった。髪は綺麗に結わえられ、唇には紅色。誓いはすでに済んでいるからか、式中の緊張はほぐれたらしい。幸せと照れが混じった笑みを浮かべていた。
そして新郎もまた、白い婚礼衣装に、長い黒髪は邪魔にならないよう束ねられている。胃痛に悩まされ顔色が少し悪いこともあるのだが、今日は平気らしい。「幸せすぎて胃痛がぶっ飛んだのか」やら「長い片想いだったな」云々参加者にいわれて、何かを返している。
ちなみに前者はハイネン。後者はフォンエルズ枢機卿である。近くにはランジットもいて何やら冷やかしているようだった。
今日の結婚式の主役である、新郎新婦は―――。
"あの"、アゼル・クロフォードと、キース・ブランシェである。
参加者は二人の身内や友人のみの結婚式であり、人数は多くない。が、参加している者は少々すごい人である。
奇人変人代表のヨウカハイネン・シュトルハウゼンと、毒舌大魔王で有名なミスラ・フォンエルズは枢機卿である。
孫を見るようにして微笑んでいるのはエドガー・ジャンネスである。彼はちなみに「俺も出るかなー」などといった教皇エドゥアール二世の代理でもあるのだ。ジャンネスがどうやって教皇を大人しくさせたのかは―――まあいいだろう。
それからバルニエルからはお祝いの言葉などが届けられていた。アーレンス・ロッシュである。なかにはレオドーラ・エーヴァルトのものもあった。
結婚式に出席するのは初めてだった。その感動もあるが、やはり大切な人の幸せは嬉しい。
「本当に幸せそうですね」
「ええ。ですが、私だって幸せですよ。こればかりは負けません」
「どや顔で言わないで下さいよ恥ずかしい」
わざとなのか本気なのか(おそらく本気)分からないが、私はゼノンを軽く小突いた。
先輩の方を見るとちょうどブランシェ枢機卿とともに笑いあっているところだった。すでに式自体は終えているので、和やかな雰囲気だった。
私の知るアゼル・クロフォードという女性は、逞しい人だった。何でも出来る強い人。男の人にも負けない強さとか、優しさ。私は先輩のことが好きだ。尊敬している人。
真っ白な婚礼衣装を着た先輩をは控え室で見たとき、本当にきれいで言葉が出なかった。うっかりなんというか、感きわまって泣きそうになったし、同時に嬉しくて。
式の最中も、そうだ。先輩は本当にきれいだった。たぶんこれからもっと綺麗になるだろう。
「本当に、きれい」
穏やかに談笑する花嫁を見ながら呟く。今日何度その言葉を口に出したかわからない。
「シエナさんもウエディングドレス着たいですか?」
「え?」
ゼノンは「ほら」と思いだしたようにいう。
「女性の憧れというじゃないですか」
―――ああ。
確かにウエディングドレスは世の女性の憧れなのかもしれない。純白に美しいレースや刺繍が施され、ドレスも美しいがやはりされをまとう人もまた、美しい。
あの衣装を着る人は、幸せな人。
私もいつか、と考えないわけではない。
「…まあ。でも、なんか自分のそういうのが想像出来ないですよ」
「似合うと思いますよ。シエナさんは黒髪ですし白に映えて」
例えば、小さな教会。今いるような教会だ。呼ぶのは親しい人だけ。豪華じゃない方がいい。………いや、と私は想像しかけてやめる。婚礼の衣装を着た相手が浮かんだからである。
微笑んだゼノンから目を離す。なんだか見透かされてしまいそうだった。