とある神官の話





 でも……こんなことを考えることになったなんて。少し前まで全然だったのに。

 ようやく年頃(?)というか年相応(?)な感じがする。自分でいうのもなんだけど。


 先輩がこちらに気づいて、手をあげる。ブランシェ枢機卿またこちらに気づく。どうやら来てくれるらしい。
 私もいこうとしたとき「シエナさん」と呼ばれた。ひきとめたゼノンがこちらを見る。
一体なんだ?




「結婚しますか」




 …………、………はい?

 何いってんのこの人。いや、今何ていったこのストーカー予備軍(いや、もう違うけど)。

 固まった私に「シエナ?」と花嫁であるアゼル先輩が声をかけてきた。綺麗だな先輩、と思う横で、だ。何しれっとした顔をしてるんだこの男はっ!

 動揺を必死に隠しながら「おめでとうございます。先輩」と挨拶をする。先輩は照れたように笑い「来てくれてありがとう」と、後ろからきたブランシェ枢機卿がいうそれに頷く。
 さすがは先輩。
 私の様子がちょっとばかりあれなのに、気づいた。




「ゼノン、また変なことをシエナにいったんじゃないだろうね?」

「変なことはいってませんよ。ただ私は」

「あーあー!何でもないです」




 必死で続きを言わせないようにする。そんな私に、ゼノンはわかっているので無理にいうことはなかった。

 そんな私に先輩は考え込む。その間「あ」と再びゼノンが何か良いことを思い付いた顔をした。

 え、なんだろう。物凄く嫌な予感がする。それはなんというか、勘。

 はらはらしていると「そういえば」とゼノンは何故か先輩へと顔を向ける。その視線がやや下がっていることに気づく。そこには、手。先輩の手にはブーケが握られたままである。
 ゼノンが口を開いた。




「花嫁のブーケを貰った人が、次に結婚するっていいますよね」

「ああ、まあ、そうだが…」




 ブランシェ枢機卿が頷く横で、先輩が考え込んでいたそれを急にやめてぐっとゼノンを見た。いや、目力はんぱない。

 しかし、何故ゼノンがいきなりブーケの話なのかはさっぱりである。

 そんな中、ランジットが酒片手に「なにしてんだ?」と入ってきたので、私は説明に困るものの、ランジットはこの空気(?)に何かを悟ったらしい。そうか大変だな、みたいな苦笑を私にくれた。

 ええそうですよ大変ですよ。大変では日々照れとは恥ずかしさでいっぱいですよ!

 これもこのゼノンのせいだ。

 ゼノンのあれな言動なんかは友人らが一番理解していることだろう。私も見に染みてわかる。だから―――。




「そのブーケ、私に下さい」




 ―――だなんて言ったら、固まるわけで。


 なんでそうなる!?


 数人の声が重なった。細部は多少違うが、そう発した人たち(私を含めて)の気持ちは同じであることは間違いない。ちなみに反応したのはとランジットと、私。ちなみに「は?」というのはブランシェ枢機卿だった。

 やや離れた場所にいるハイネンとフォンエルズ枢機卿がこちらを見ている。うわぁ、ニヤニヤしてるよ。
 なんか面白そうなことになってますよ、みたいな声が聞こえてきそうである。




「普通ブーケトスすんのは女だろ!?」

「いや、なんというかお前の突っ込みも違うだろう――――ってアゼル!?」




 ブーケ下さい発言をしたゼノンに、殺気めたいものを漂わせたのは、花嫁。誰のかというと、勿論ブランシェ枢機卿の。




「やるか馬鹿者!」




 花嫁ご乱心。
 アゼルは能力持ちである。ナイフやら何やらを出現させたことにより、皆が慌てる。

 慌てる皆をよそに、そうさせた本人は飄々としているのだから、もうどうしろというのか。
 
 しかし、ブーケ下さいとは。
 一体なんでそんなことを…。




「つまり」





 騒ぐ花嫁と参加者をなだめる新郎とその友人、という訳のわからない状況が目の前で繰り広げられられている。
 そんな中、ニヤニヤしているのは毒舌大魔王とハイネンである。

 二人とも近くに来ていた。
 ……出来れば止めてほしい。




「あれですよ。ブーケを受け取った女性は次に結婚出来るというでしょう」

「え?ええ」

「勘違いなのかわざとなのか、あの男は、ブーケを受け取れば次に結婚するのは自分であり、恋人である君と」

「っあのもういいですわかりました……」





 なんということだ。

 どうりでニヤニヤしているわけだし、先輩が怒っているわけだ。勘違いなのかなんなのか、とにかく、ああもうどうしてくれるんだ!

 目の前の有り様(花嫁VS招待された人)は、ブランシェ枢機卿とランジットが頑張っている。がんばれ、二人とも。私には無理です。


 真っ赤になったまま、ゼノンを少し恨む。





「シエナ」

「……なんですか」

「是非とも式には呼んでくださいね?」

「っ!ハイネンさん」




 文句をいったところで敵うはずがない。

 私は諦めて口を閉じたが―――――何だか、笑ってしまった。




 結婚、か。


 彼となら、いいかも、なんて思った自分がいた。



  * * *





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